贈り物

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 1650円。たったこれだけだ。100円だまが10枚、あとは10円だまの数々だ。10円、20円と少しずつ身を削ぐようにためたのだ。だ駄菓子屋では50円を超えるものは買ったことがなかった。友達にせこい奴だと思われるのが恥ずかしく、みんなと目を合わせないようにお菓子を買った。そんな努力をしてやっとこれだけになった。貯めたお金をケイスケは三度も数えてしまった。もう明日はクリスマスだ。  どうにもならない。家のソファーに身を投げて途方にくれた。一点を見つめて困り果てていると、人生というものは悩むためにあるものだと思ってしまう。考えて悩んで悶える、そして、笑って生きるのが人生なのかもしれない。その中ではとりわけ悩んで悶える時間の割合が大きい。  ケイスケの家は都営団地の3階角部屋に位置している。エレベーターはなく毎回階段を上がっていくしかない。真夏なんかは階段を上り下りするだけで汗だくになってしまい、それはケイスケの神経を苛立たせた。日が暮れると団地の辺りは真っ暗になる。電燈が切れているからだ。ケイスケの団地は一階の蛍光灯だけがついている。とはいえ電気が点いたり消えたりして、辺りを弱々しい光で地面を照らしたり影を落としたりするので、かえって周りの暗さを強調した。団地の入り口には誰からも手紙のこない郵便受けがある。ドアの前に呼び鈴はついてるが、それが音を立てたことは記憶の中で一度もなかった。雨や埃で色がはげた表札には「木村 佳子」と書いてあるのが何とか読み取れる。  母親が離婚する以前は、都心のタワーマンションに家を構えていたらしいが、ケイスケの物心がついた頃には既にこのオンボロに住居を移していた。どうして離婚したかは知らないが、ひどいお父さんだったらしい。だが母親が玄関を開けて姿を見せると最愛の息子が笑顔で玄関まで迎えに来てくれるのだから結構なことだ。  ケイスケは貯めたお金を悲しそうに見た後、窓際に立ち日が地平線に落ちるとこを見た。ふと目線を下に下ろすと、縮こまるような寒空の中寂れた公園の寂れたベンチで寂れた猫が丸まって眠っていた。明日はクリスマスなのに母親に満足なプレゼントさえ買ってあげられない。どうにか少ないお小遣いからひねり出したのがこれだ。どんなものをプレゼントしようか、何を一番喜んでくれるのだろうか、それを考えているのが何よりも楽しかった。
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