贈り物

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 「母さん、そんな顔をしないでよ。確かにゲーム機を売ったのは良くないかもしれない。けど、何も母さんにあげられないクリスマスなんて、ぼくは絶対に嫌だったんだよ。母さんがどれだけ苦労してぼくを育ててくれてるかはぼくにだってわかる。せめて今日だけは喜ばしたかったんだ。だから、メリークリスマスって言ってよ!ゲームなんて無くてもぼくは母さんがいるだけで幸せだよ。すごく素敵な贈り物を準備したんだ」  「あのゲーム機売っちゃったの?」母さんは喉元から音を絞り出すように発した。何か喉の奥につっかえたものを吐き出すよに、苦しそうに声を出したようだった。  「母さんのプレゼントを買うために売っちゃったんだ。でも、ゲームは同じことの繰り返しだけど、今日のクリスマスは今日だけさ。来年もクリスマスは来るだろうけど、今日とは全く同じじゃない」  母さんは部屋を見回して、これが現実かどうかを確かめているようだった。  「もうゲーム機はないのね」とぼくの後ろの空間を見つめながらぼんやりと言った。  「いくら言ったって売っちゃったんだ。もういいじゃないか。せっかくのクリスマスなんだから。母さんの喜ぶ姿を見たかったんだ」  ぼーっとしていた母さんが我にかえるようだった。手に持っていた荷物を床にそっと起き、くたびれたスニーカーを脱ぎ、ケイスケを優しくハグした。ケイスケは突然の出来事に困惑したが、少しして頬を母さんの首元に寄せた。ケイスケを離し、母さんは持ち帰ってきた袋の中から長方形の緑と金色でラッピングされたケースをテーブルに置いた。  「私からのプレゼントよ。昨日までだったら喜んでくれると思ってたんだけど」と含み笑いをしながら苦しそうに言った。ケイスケの暖かな温もりのある手が丁寧にラッピングを剥がした。うわっと大喜びの声をあげたが、なんたることか、今ではそれは何にも意味をなさないものだった。出てきたものは最近発売された大人気のゲームカセットだった。買うのも困難なほどの人気で、世の子供はみんな喉から手が出るほどそれを渇望していた。ずっとケイスケが欲しいと言っていたそのゲームが目の前にある。しかし、その憧れのゲームを遊ぶための機械を数時間前に手放してしまったのだ。  ケイスケはゲームを抱きしめて胸に押し当てた。涙で目が曇り、母さんをまともに見ることができなかった。そこに母さんは慰めるようにぼくを抱きしめてくれた。
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