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出会った二人
彼女との心地よいダンスを邪魔するかのように、24時の鐘が鳴り響く。
「いけない。帰ります!」
俺の手を離し、彼女は人を避けながら颯爽と走っていった。
「えっ? ま、待てよ!」
王子の俺に断りもなく、背を向けるなんて無礼な! とか言ってる場合じゃない。
慌てて追いかけたが、他の女が纏わりついて走れない。邪魔だっての!
振り切ってやっと入り口の門が見える所まで行ったら、彼女が乗ってるであろう馬車が出発してしまった。
「はぁ!? なんなんだよ!!」
撫で付けてる髪をガシガシする。イライラのあまり舌打ちし、ホールに戻って使用人に八つ当たりしようかと企んだとき、コトリと音がした。何か蹴ってしまったらしい。
「黒いガラスの靴……?」
忘れ物か? 先程までここにいたのは俺と彼女だけだ。警護も常駐してるし忘れ物があれば回収されるはず。ということは、と一応、俺の足元を確認する。
彼女の片靴だと判断した。
「ノワール王子、ご一緒の方は?」
ホールに戻ろうと踵を返したとき、一番の側近のゲイル、通称ジィが駆け寄ってきた。
「帰った」
「えっ? 今なんと?」
俺は凄くイライラしている。何度も同じことを言わせるな。
「帰ったんだよ! 舞踏会はお開きだ、おーひーらーきー!!」
えっ!? とばかりにジィの目が見開いた。
「今ですか?」
「いつでも良いけど、俺はもう踊らねぇ」
「……かしこまりました」
ジィがしぶしぶ承知した。怒りのオーラが漂ってるが見てみぬふりだ。
「その靴は……?」
持っている靴に気づいたらしい。
「あぁ、彼女の忘れ物。珍しいよな、ガラスの靴なんて。……なぁ、ジィ、俺は心に決めた」
鼻息を荒くする俺を見て、ジィの顔が曇った。どうせ、面倒事を、とでも思ってるのだろう。
「俺はこの女を探す。そして結婚相手にする」
必ず捕まえる。俺に探してほしくてガラスの靴を置いてったんだろう?
ジィの顔がますます曇った。軽く睨まれてるような気さえする。
「国王に伝えてくれ。俺は決めた相手がいるから、舞踏会は今後参加しないってな」
自室に帰って風呂に入って寝よう。歩き出した俺の背にジィの視線を感じた。
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