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一目惚れだった。
何度言ってもいい。俺のことだし。
一目惚れだった。ビビっとかグサッ、じゃない。彼女を見た瞬間、無の領域だ。ジィが彼女の手を引きホールに降り立った瞬間、俺の思考は止まり、音のない空間に落ちた。気がつけば他の女をかき分け彼女の元へと向かった。
ジィと彼女が見つめあい、軽く会釈をして別れる。ジィ、お前じゃないんだよ!
そして彼女の手を取った俺は、完っ璧な王子を演じた。高学歴、高収入、高身長、さらに金髪碧眼。もはや恋に落ちるしかないだろ?
「はぁ? ほとんど自分の実力ではなく、国民の皆様のお陰でしょう」
ジィが俺の思考の中でため息をついた。
黙ってろ、ジジィ。薄々、気づいてんだよ。
俺は必ず彼女を見つけて結婚する、そう決めた。腹を括ったら行動あるのみ。俺の結婚までのカウントダウンが始まった。20までのカウントダウンは始まってたけどな。
・・・・・
何とか舞踏会を終わらせ、片付けが終わった明け方に国王に呼ばれた。
「結婚は20才までに間に合いそうだな、ゲイル」
正装から青い水玉のパジャマに着替え、ナイトキャップまで被った国王が、豪華な執務室で書類に目を通しながら話しかけてきた。
「息子がまた、ややこしいことをしてしまったな、申し訳ない」
国王が書類から顔を上げ、詫びた。表情を崩さず答える。
「いいえ、仕事ですので」
テメェのクソガキ、いつか海に沈めてやる、城の庭の池だとすぐ見つかるからな。と心の中で思った。あくまでも心の中で、だ。
「目が……口ほどに語っておる……。本当に申し訳ない。今日は午前中は休め。ワシも舞踏会の処理が終わったら、今日の昼まで寝る」
流石に老体に鞭を打っての残務処理は堪えるのだろう。俺も国王の配慮が有難かった。
「お話はこのことだけですか?」
俺はそんなに若くない。休養しなければ仕事に響く、今日は特に。国王が黙っているので、礼をして部屋を出ようと頭を下げたときだった。
「息子を立てろ」
床を見たまま、息を詰める。
「目は口ほどにものを語る。ゲイル、お前の目は語っておった。出過ぎた真似をするな」
国王の言っていることはよく解る。俺は王子の付き人なのだから。
「……仰せのままに」
そのままの体制で呟き、改めて一礼をして執務室を出た。
あぁ、疲れた……。
早く自室で横になりたかった。
・・・・・
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