会いたい気持ち

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会いたい気持ち

 待ちに待った新月の日は朝から大忙しだ。  舞踏会を行ったホールの真ん中に椅子とガラスの靴を置き、その周囲を「コ」の字に囲むように立会人用の机が並べられた。入り口に受付があり、送付したリストと照合する。  立会人は10人はいるだろうか、そのなかの“じいさん”に俺は変装した。  自室で灰色のカツラを被り、度数のない老眼鏡をかける。さらに使用人が鼻の下と顎につけ髭、目尻にシワやほうれい線まで書いていた。渋い色合いのジュストコールらしき服まで着せられると、鈍い俺でも遊ばれてると気づいた。  俺を呼びに来たらしいジィが、変装した姿を見て吹き出すのを我慢している。不自然な無表情を貫くな、目が空間を見てるぞ。 「今日は王子の事をジィ、と呼びますね」 「はぁ? 何でジィが俺をジィと呼ぶんだよ」 「では何とお呼びすれば良いですか?」  特に考えてなかったので、返答に困る。 「考えて、決まりましたらお知らせください」  ホールに移動すると、立会人のなかでも上座になるであろう席を案内された。ジィが椅子を引き着席を促す。後方の壁際に護衛らしき騎士が3人程控えているのを確認した。 「私は仕事に戻ります。お手洗いは護衛に申し付けてください」  失礼します、とジィが一礼をして下がった。しばらくして他の立会人も席に着き始めた。  彼女に会える、そう思うと胸のドキドキが止まらなかった。 ・・・・・  結論から言うと彼女は来なかった。  3日間、お洒落な服を来た女たちで賑わったホールは、今は静まり返っている。他の立会人や護衛の騎士は帰った。城の者は黙々と片づけている。  確かにガラスの靴が履ける女はいた。靴が足に合うたびジィが視線を寄越したが、首を縦に振れなかった。俺と踊った彼女じゃない。ジィも追究をしてこなかった。  夕日が差し込み俺の影が立つ。    疲れた、無性に泣きたい。  そっと俺の肩を叩き、ジィが優しく微笑む。 「部屋に戻ってお休みください。その格好では気も休まりません」 「……」  自暴自棄で無気力な俺を見兼ねて、ジィが手を引きズルズルと自室まで連れていく。部屋に着いたが突っ立ってるだけの俺を見て、さらに見兼ねて服を着替えさせてくれた。温かいタオルで顔を拭き、メイクまで落としてくれている。 「……後はお風呂で綺麗にしてください。流石にそこまで、ご一緒できませんから」  そうだよな。男の裸なんか見たくないし触りたくないよな。俺だって触るなら女がいい。彼女がいい。  思い出したら涙が浮かんできた。 「ノワール王子」  ジィの声が凄く優しい。
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