序章

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序章

 私は舞踏会に行きたかった。  招待状を手にボロボロの服で泣いていると老婆が現れ、魔法で私を変身させてくれた。艶のない亜麻色の髪は結われ、疲れた顔は明るく化粧された。光輝く純白のドレスに漆黒のガラスの靴。タイムリミットは24時の鐘が鳴り終わるまで。  用意されたカボチャの馬車で城に向かう。しばらくして城に着いた。馬車から降りたとき、硝子張りのドアに私が映った。  私が驚くほど、私は美しかった。  招待状を見せて受付を行い、控え室に通された。階段を降りた先には舞踏会が開かれている。  急に足が動かなくなった。  怖くなった。  貴族であっても、所詮、私は使用人だ。晴れの舞台は似合わない。  階段の端に立っていると、背の高い人が声をかけてきた。しばらく私の話に耳を傾け、ホールに導いてくれる。背中を押してくれたのだと気づいた。  ホールには赤い絨毯、高い天井にある豪華なシャンデリア。色とりどりのドレスで美しく着飾った年頃の乙女たち。心地よい音楽も流れている。  カツカツと靴音を鳴らせ、白いタキシード姿の王子が私に近づいてきた。私の手を引きダンスへと誘う。 「どうぞ、(わたくし)と共に」  目があって微笑まれたとき、私は気づいてしまった。  私はとっくに恋に(・・・・・・)落ちてしまっていた(・・・・・・・・・)、のだと……。
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