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普段と変わらない日
あっという間に普段と同じ生活が戻ってきた。
知り合いから相談がある、と言われて俺は喫茶店に来ていた。
「久し振り」
それから他愛もない話が始まったが彼はなかなか話を切り出さない。
「それで話しって何?」聞きながら顔を上げると知り合いがビックリしてこっちを見ている。
視線を追って横を見るとえ?2度見してみたが
「ソノさん!」いつの間にか俺の隣にちょこんと澄ましてる座ってるソノさんは
「はい」と軽く返してきた。名前を聞いて彼は震え上がった。そういえばさっき最近どお?の返事にひいおばあちゃんのソノさんが亡くなったと話したばかりだった。
ソノさんは近づいてきた店員さんにコーヒーを注文した。ということは皆にも見えてるのか?
「いいアルバイトがあるから一緒にやらないか、って話じゃないよね?」ソノさんはにっこり笑いながら知り合いに話しかけた。
「自分がやめる代わりに誰か呼んでこい、って頼まれて仕方なく家のひ孫を呼び出したわけじゃないね、この子は人がいいからね、頼まれると断れない」
店員さんが運んできてくれたコーヒーを両手で包むように囲うとソノさんのコーヒーカップが持ち上がり始め、それを二人で呆然と見てるとソノさんはゆっくり香りを味わうように目を細めた。
「いい香りだね」
「ひいっ、、」固まってた知り合いが小さく呟き、次の瞬間慌てて荷物をひっつかみ
「今日はありがとう!じゃ、また!」そう言って
凄い勢いで立ち上がりあっという間にいなくなった。
「帰っちゃった」俺はレシートに投げるように乘せられた五百円玉を見つめながら独り言を言った。
「おじいちゃんも少しいただくかい?」ソノさんは浮かせたカップを前に差し出した。
「じいちゃんも来てるの?」
「うん、前にいるよ」コーヒーの差し出されたほうをじっと見たけれどテーブルにソファしか見えない。霊感ないからなあ。
「さっきの子、じいちゃんに気づかずに通り抜けてったから今頃くしゃみしてると思うよ」コーヒーを戻しながら
「あの子明日は風邪をひくね」クスっと笑った。
「え、なんで・・・」何から聞いたらいいんだろう?
「お前さん達には恩があるからね」
「修にはおじいちゃんがずっとついてた」
「お前さんにはばあちゃんがつくよ」あ、ありがとうと思わずお礼を言うとソノさんはコーヒーをそっと降ろした。
「お前さんは断れない性格でそれにつけ込まれやすい」こちらをじっと見ている。
「修の世話を焼いて…いつもお世話係に回ってしまう」
「まあ、そうかな」納得だ。
「誰にでも優しくできるといいけれど現実はなかなかうまくいかない」
「相手の都合に合わせてなんでも言うことを聞く必要はないよ」
「そっか」コーヒーを覗きこむ。
「そうだね」一口飲み込むとすっかり生ぬるくなったコーヒーは苦かった。
「言っておくけど」
「ばあちゃんは砂糖三つとミルクの入ったコーヒーが好きなんだ、お供えするときはそうしておくれよ」
外に出て振り向くと明るい陽射しの中でソノさんはほとんど透けてゆらゆら揺れているように見えた。
「じゃごちそう様」心なしか声もくぐもって聞こえる。
「…ありがとう」
「ちゃんと帰ってよ」茶化して言うと
「じいちゃんがいるから心配ないよ」
そうだね、と空を見上げた。ソノさんはどこに帰るのだろう?とふと思った。
そして…視線を戻すとソノさんは居なくなっていた。
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