遠足

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遠足

 そよ風が吹く公園でボクらはグループに分かれ鬼ごっこしたりお菓子を食べたり遊具で遊んだりしていた。もうすぐお昼でお弁当の時間を迎えようとしているその時、ボクと快斗はある子の異変に築く。安東潤(あんどう じゅん)くんがジャングルジムの上でボーッと独り空を見上げていた。そして、彼の後ろには黒い羽根の生えた悪霊が取り付いていたのだ。悪霊の名はガラス。人や物を浮かせる力を持っている。  「なぁ、レイ。確か潤のやつ昨日親と喧嘩して今日もお弁当作って貰えなかったって落ち込んでたよな。」悪霊は気持ちが沈んでいる人間に取り付き易い。だから、潤くんはガラスに取り付かれてしまったのだと直ぐにわかった。「ええ、たぶん食べ物か家族に執着した悪霊ですね。前者ならお弁当の時間が来たら危険です。まずは潤くんと話しをしましょう。」ボクと快斗はジャングルジムを登る。 「よう、潤元気ないな。やっぱり弁当作って貰えなくて落ち込んでいるのか?」快斗が茶化すように言い「元気出してください。お弁当はみんなで分けて食べましょう。困った時はお互い様ですよ。」ボクは励ました。  「ありがとう。でも僕やっぱりお母さんにお弁当作って貰いたかった。お母さんのお弁当が食べたいよ。」と潤くんは泣きそうな声で言った。「みんなはいいな。お弁当なんていっそのこと全部飛んでいってしまえばいいのに。」潤くんは完全にガラスに取り込まれ瞳が濁っていた。「そうだ、そうだよ。もっと羨め。私がその為の力を与えてやる。」ガラスがささやく。「ダメですよ。潤くん。今の君は悪霊に操られているんです。いつもみんなを気遣ってくれる君が真心のこもったお弁当を台無しになんかしたくないはずです。」どうか届いて、ボクらの声を聞いて潤くん。「真心・・・。」潤くんは呟く。ガラスは「こいつらに何が分かる。いつもぬくぬくと親に甘えているふぬけどもだぞ。潤、羨ましいだろ。妬ましいだろ。力を受け入れろ。」とムキになった。「ちがう・・・。」潤くんの瞳に生気が戻りかける。「確かに僕はみんなが羨ましかった。でも、本当はそれ以上に悲しかったんだ。」昨日、嫌いな食べ物を残して母親に叱られ今日のお弁当を作って貰えなかった潤くんは「僕、間違ってた。好き嫌いは誰にでもあるけど真心がこもったごはんを粗末にしちゃいけないのに・・・。」ごめんなさい、お母さん。ごめんなさい。と潤くんは涙を流し泣きじゃくった。  「ダメだこりゃ。違う人間を探すか。」と言いガラスは潤くんから離れた。「チョイっと待ちな、悪霊。」快斗がサトルの力を借りガラスを引き寄せ掴む。「ガラスだ!私にも名前くらいはある。」快斗を睨み付けガラスは暴れる。「ガラス、あなたは烏の霊ですね。それも空を飛べなくなり亡くなった。」飛んでいってしまえばいいのに、と潤くんが言った事とガラスの嫉妬心、そして、黒い羽根の霊を踏まえるとガラスは怪我をして空を飛べなくなってしまった烏という結論に達した。「ああ、そうだ、私は仲間をかばい銃で撃たれ空を飛べなくなくなった。それどころかかばった仲間さえ私を見捨てどこかへ飛んでいってしまった。私はそれが恨めしかった。」そう言うことか。ガラスも本当は仲間思いの優しい霊なんだ。だから、思いやりのある潤くんに取り付いたのか。ボクはコロモの力を借りてガラスの銃で撃たれた記憶をリセットした。ガラスは仲間と共に大空を飛び立った記憶と共に天へ登って行った。  「皆さーん。お弁当のお時間ですよー。」と先生が集合をかけた。「行こうぜ、潤。」快斗が潤くんの手を取る。「でも、僕お弁当が・・・」しゅんとした潤くんに向かって先生が大声で「潤くんも、先ほどお母さんがお弁当の忘れ物届けてくれたから早く降りてきなさい。」と叫んだ。「だってさ。良かったな、潤。」快斗の言葉に「うん、二人ともありがとう。あと、お母さんにもお礼言わなくっちゃ。」ようやく笑顔が戻った潤くんはボクらとジャングルジムを降りる。「もーう。遠足の日にお弁当忘れちゃダメでしょう。気お付けなさい。」と先生は注意した。「ごめんなさい。」と潤くんが言うと先生はもういいからとみんなとお弁当を食べるように促した。  無事遠足が終わり、潤くんもお母さんと仲直りしたらしい。ガラスも天国で飛び回っている事だろう。
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