夏休みのプール

1/1
前へ
/6ページ
次へ

夏休みのプール

 暑い日差しが降り注ぐ学校のプールで海奈ちゃんは友達に泳ぎを教えていた。ボクと快斗はというとプールで遊ぶ子供達の絵を描いていた。「あちぃー、泳ぎたい。」快斗は嘆く。ボクも「この宿題が終わったらボクらも泳ごっか。」と同意した。  ボクらが絵を描き終わった頃、「ねぇ、なんか急に寒くなって来たんじゃない?」と誰かが言った。確かに気温が下がっていた。それも異常なくらいに。「先輩、これってもしかして・・・」海奈ちゃんが近寄って来てボクらも頷く。悪霊の仕業だった。  ボクらはプールに残ったある少女に目を付けた。「あの子、たしか隣のクラスの芽衣(めい)ちゃん。」海奈ちゃんは驚く。悪霊は彼女に取り付いていた。気温はどんどん下がる。このままだとみんな凍死してしまう。「海奈ちゃん、まずは芽衣ちゃんのところまで道を作ってください。」ボクの言葉に「はい、先輩!」とナギサの力を借りて海奈ちゃんはプールを真っ二つにした。  その道を使いボクら三人は芽衣ちゃんに近づく。「やぁ、お嬢ちゃん元気ないね。どうしたんだい?」快斗が問いかける。「おぼれる、泳げない、沈む・・・。」芽衣ちゃんは呟く。「先輩、おかしいですよ。だって、芽衣ちゃんは泳げるはずだもの。」海奈ちゃんはプールにいた子全てのスイミングの技量を把握していた。「もしかして・・・」ボクは思った。芽衣ちゃんは一人でも泳げた。だから、独りでプールにいた。そこで足を吊ってしまった。誰もその事に気が付かず芽衣ちゃんは溺れそうになる。独りと言う状況で気持ちが沈んでいたのだろう。芽衣ちゃんはプールの悪霊に取り付かれてしまった。  「もう大丈夫ですよ。芽衣ちゃんは独りではありません。貴重な夏休みをみんなで楽しみましょう。」と言いボクは足を抑えた芽衣ちゃんを抱き抱えた。「芽衣ちゃん、もし良かったら。他の子に泳ぎを教えるの手伝ってくれない?」海奈ちゃんが頼み込む。「教える?そうか、そうだね。私、プールは独りで泳ぐつまらないモノだとばかり思っていた。でも、違うんだ。プールはみんなのモノだもの。みんなで泳ぐ練習をすれば退屈しないよね。」芽衣ちゃんの瞳に生気が戻った。  「芽衣・・・。あなたも私を見捨てるの?」どうして、みんなは私を独りにするのか、と悪霊のセレナは暴走しかける。「違いますよ。セレナさん。」ボクはセレナが悪霊になってしまった理由を知っていた。10年前、セレナが生きていた頃、彼女は学校で孤独だった。そして、プールで独り事故死した。だから、気温が下がった。孤独な冷たい感情が原因だった。  「あなたは確かに学校で独りぼっちだったかもしれません。でも、あなたにはあなたを愛し死を悲しんでくれるご両親がいたはずです。」ボクは願った。「セレナさん、どうか幼い頃の幸せな時間を思い出してください。」ボクの言葉が届くなら彼女を両親のもとに連れて行ける。大丈夫、希望はある。ボクは自分を励ました。その時、「そう、私は幼い頃、幸せだった・・・。」と、セレナは涙を流す。「今だ、レイ。」快斗の合図でボクはコロモの力を借りる。セレナの記憶を幼い頃までリセットした。セレナは幸せそうな笑顔を見せ天に登って行った。  実はセレナの両親は2年前に交通事故で亡くなっていた。そのニュースでボクらはセレナの事を知った。まさか、セレナがこの小学校のプールで亡くなっていたとは思わなかったが無事成仏できて良かったと思う。彼女はきっと両親と天国で幸せに暮らしていることだろう。  急に寒くなった学校のプールに暑さが戻った。プールから校舎に戻った子供達もまた、プールに集まり始める。芽衣ちゃんは海奈ちゃんや他の子と泳ぎの練習をし楽しそうに笑っていた。ボクと快斗は泳ぎが得意な数人の子供達を引き入れ鬼ごっこをして遊んだ。  日が暮れボクらは家に帰り夏休みの思い出に今日の出来事を思いながら就寝した。  
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加