合唱コンクール

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合唱コンクール

 木々は紅葉し清涼な空気が漂う頃、学校の体育館には大勢の人々が集まり元気の良い騒音とも言えるハーモニーや拍手喝采が響いていた。今、ステージでは中学年の子供達が歌を披露している。そんな時、急に停電が起こった。暗幕の敷かれた体育館は真っ暗になりざわざわとした混乱が起きる。そんな中「先輩、先輩。こっち、こっち。」とほのかなペンライトの灯りと共に声が聞こえた。声の主は誠くんだった。ペンライトなんて準備いいなぁ、とボクは思い。「誠、お前ペンライトなんて準備いいな。」快斗は言葉にした。「へへ、文化祭らしくていいなぁーって思って持って来ていたんだー。」誠くんは無邪気に笑った。  「それで、この停電どう思う。悪霊の仕業だと思うか?」快斗が切り出す。「悪霊の仕業だとしてもこの暗闇では特定は難しいでしょう。」ボクはまじめに答える。「えーそれじゃあ諦めるの?」誠くんは詰まらそうに言った。「誠、まだ悪霊の仕業だと決まった訳ではないぞ。」快斗が先走る誠くんに突っ込む。「大丈夫、ボクらには守護霊が付いていますから。」ボクはギンガを見て「ギンガはもう築いていますよね?」と知恵を求めた。ギンガは答える。「やれやれ、我の聴力を使おうとは、さすがに視覚が奪われてはキツイか。」ギンガによると体育館のステージから一番遠い後ろの席の人物に悪霊が取り付いているらしい。「ギンガいいなぁ。コロモもレイの役に立ちたーい。」コロモが膨れる。「コロモちゃん、かわいいー。」快斗がおだてて「快斗、ありがとう。」コロモの機嫌が直る。  ボクらはギンガの道しるべ通りにその人物を見つけた。その人は目の見えないお爺さんだった。しかし、お爺さんは車椅子に座っていたが付き添いの人が見当たらなかった。「よう、じいさん、あんた独りで来たのかい?」快斗が初対面の大人の人に対して失礼な言い方をしたがお爺さんは気に止めず「いない、いないんだ。ナズナが・・・。」と言った。ナズナは盲導犬だった。お爺さんは唯一頼れるナズナが急に消え目が見えないという不安から悪霊に取り付かれた。  「お爺さん、安心してください。ナズナは動物だから、事情の知らない学校の関係者が外に連れて行ったのでしょう。日の当たる所に行けば会えますよ。」ボクはゆっくりと大きめの明るい声で言った。「そうか、そうか、良かった。ナズナは無事なんだな。」お爺さんは安心し取り付いた悪霊は「日の当たる所なんてごめんだ。」と他の宿主を探そうとお爺さんから離れた。「おっと、そこまでだぜ。」すかさず快斗はサトルの力を借り悪霊のヤマトを捕まえた。「先輩、ナイス。」と言い御経を唱えようとした誠くんをボクは静止する。「悪霊を強制的に成仏させるのは君の悪い癖ですよ。まぁ、家柄的に仕方ありませんけど。」ボクは悪霊の心を安らかにし送り届ける方法を選ぶべきだと伝えた。誠くんは御経がダメならどうやって成仏させるのかと聞いて来た。「答えは会話です。」まぁ、見ててください。とボクは悪霊のヤマトと向き合う。「ヤマトさんは夜が好きなんですね。」そう、ヤマトは夜の暗闇が好きだった。光はまぶしい。でも、明るさは睡眠を妨げる。大家族に生まれたヤマトはずっと静寂にあこがれていた。それが彼の未練だった。「そう言うことなら。快斗、お願いします。」快斗はサトルの力でヤマトが奪った光と騒音を盗む。体育館の明かりが付きヤマトは満足そうに天へと登って行った。  「今回はコロモ何もできなかったー。」コロモは悲しみ。「コロモにはいつも感謝していますよ。」とボクは励ました。するとコロモは「レイ、だーいすきー。」と甘えて来た。  盲目のお爺さんは無事ナズナに会え家へと帰って行ったそうだ。誠くんは会話の大切さを学んでくれたようで授業中良く先生に質問するようになった。  ヤマトは天国でどうしているだろうか。ちょっと変わった幽霊だったな。落ち葉が散らばる通学路を歩きながらボクは合唱コンクールの日の事を思い返した。  
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