食べる

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食べる

「君は本当によく食うよなァ」 食卓テーブルに肘をついた恋人が、呆れ半分笑い半分で言った。 「そうかい?」 俺は一応微笑んで応えたものの。 しかしその行儀の悪さも指摘するべきなのだろうが……今は無理だ。すごく腹が減っているから。 繊細な金細工の施された皿は、恐らく安い物ではないだろう。 しかし空腹と食欲により、器よりその上に乗っているやたら手の込んだ肉料理……なんだろう。グリルした肉に、野菜や果物を使ったソースがかかっている。 それを手が汚れるのも気にせず手掴みして食らう。 そんなものだから、俺が彼の横柄とも言える態度や言動をとやかく言う資格も状況でもないのだ。 ―――嗚呼、そんなことより。 「ねぇアダム」 空っぽになった皿はソースがほんの少しこびり付いた位の綺麗なものだ。 それを軽く押し出して恋人の名前を呼ぶ。 ……出来るだけモノ欲しげに、乞うように。 「まだ食べるのかい?」 金髪の髪をかきあげて、深々と溜息をついた彼はとても美しい。 彼の蒼い瞳。ブルーサファイアのようだとこの前例えたら『陳腐だな……落第』と豚を見るような目をされたっけ。 しかし確かに陳腐だ。しかも正しくない。彼の双眸の方が、そんな石ころなんかよりもずっと深く光を宿している。そして同時に濃い闇を孕んで覗き込む度に心を掻き乱される。 そうそう。瞳だけじゃない。彩る長い睫毛も、形の良い鼻梁も薄い唇も。全てが神様が精巧に作った人形のようだ。生気がなく、色の白い肌は滑らかで振れたらしっとりと俺の手に吸い付くようで。 ……まぁこの『食事』が終わらないと触れさせてもらえないのだけれど。 「ほら。しっかり食えよ」 嗚呼、この美しい男が。俺の恋人で、今もこうやって給仕をしてくれるのだ。 それだけでない。料理はこの屋敷の料理人兼執事が作っているという。 俺は生憎、その執事という人を見たことがない。 もっと言えば。俺がこの屋敷に済むようになって3ヶ月だが、未だにこのアダムとたまに姿を見せるメイド1人しか目にしていないのだ。
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