食べる

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―――この屋敷。 3ヶ月前、猟銃で打たれ瀕死の重症を負った俺を、犬猫を拾うように助けたのはここの主人。アダムだった。 どんな理由で、こんな森の中の大きな屋敷で若い彼が十何人かの使用人と暮らしているのかは知らないし、何故か聞くことがはばかられた。 しかし、今の俺にとってはどうでも良い。 ここには美しい恋人と、美味い飯がたらふくある。 「……もう腹は膨れたかい? 犬ころ君」 「犬ころじゃない。俺はジャックだ」 人を犬扱いする恋人に、俺はムッとして言い返す。 牙を剥くような顔をして見せると、アダムは肩を竦めて軽く手を挙げて『ジャック』と俺を呼んだ。 「そうだ。俺はジャック」 お前の恋人。 嗚呼、なんて幸せな響きだろう! 神様なんてガキの頃も祈ったことは無いけれど。それでも今なら感謝もするしお辞儀もしよう。 足にキスなんかはしないけどな。 「腹膨れた。美味しかった……ありがとう」 「そうか。オリバーにも伝えておこう」 オリバー、料理人の名前らしい。 俺はその瞬間、ほんの少し気分を害した。 腹は満たしたが、胸の辺りがモヤモヤとした苦い気分だ。 「アダム」 おもむろに立ち上がり椅子をひくと、何やら言いたげな彼と視線が交差する。 俺は微笑み努めて優しくその手を取った。 そして肉付きの悪い腰に腕を回し引き寄せ、最後のお強請りの言葉を耳朶に囁く。 「デザートは?」 思い切り甘えた声で。そこに吐息を多く混じらせると腕の中の身体が小さく震えたのが分かった。 ……嗚呼、期待して良いんだな。 待てをされた犬のように、口内に涎が溜まり自然と息が荒くなる。 ごくり、とその唾を飲み込めば。 「わ、分かった……」 何故か涙を含んだ声で小さな返事が返ってきた。 ―――俺はこの瞬間が堪らなく好きだ。 今度は彼の腹を満たさなきゃいけない。
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