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「何、考えてるの」
「っあ……あっ、ああっ……ひ、ぃ……」
どこからこんな淫猥な水音がするのか。
ぐちゅぐちゅと掻き回されて。内部から擦り上げられる行為から、この三日間で遂に『別の感覚』を拾うようになった事も。
全部、なにも、全て……考えたくない。
「も、やめ……て……ぇ……あぁ、っ、あああ……」
「ここ、良いんだね」
「ひぁッ! ぃ……や、だ、だめ……やめろっ……た、たす、け……て……」
嗚呼、オレは神に祈るような習慣もない。そもそもオレはそんな存在じゃあない。
だが縋るものがないと、とうに気が狂ってしまう。壊れてしまうのだ。
噛み締めて声を殺していた指は、両手首ごと捕らえられて纏めてシーツに縫い付けられた。
容姿だけでない、そのしなやかで彫像のような美しい肉体がオレを追い詰めていく。
大きく引き抜かれたかと思えば、また深く穿たれてての繰り返し。半永久的繰り返されると思われたその行為に、神経を丸裸にされたような恐怖を感じて泣き叫んだ。
「っ……ほら、ッ、そろそろ、だね」
律動そのままに、既にオレのより大きくなった手を器用に伸ばしてサイドテーブルから取り出した物。
それは、銀色の光。鈍く光る刃の色だ。
「いっ……いやっ……ぁあ、それだけっ、は……」
揺さぶられながらの必死の拒絶も甘い視線で流される。
刃物、銀ナイフが彼の手によって大きく振りかざされた。
不規則な線を描いた先の行き着く先は……ジャックの首。驚くほどにあっさりと、彼は自身の首にナイフを突きつけたのだ。
「ほらアダム。食事の時間だ」
オレは知っている。彼が、この人狼が何をする気なのか。
これから起きることも。
自分の身に何が起きるのかも。
覆い被さる彼の首筋から吹き出した血潮。
皮膚やナイフを伝って流れ、オレの顔に幾つもの雫となって滴り落ちてくる。
「っ……はぁっ、ぁ……はッ……ああッ! あ、あ……」
口に入る。皮膚に毛穴から入ってしまう。
血が、彼の、人狼の、あの、血が。
心臓が途端に跳ね上がったように鼓動を早め、水を浴びたような汗が全身の汗腺から吹き出す。
舌が、いや全身が痺れたように動かなくなる。呂律が回らず意味不明瞭な声が唇から溢れて止まらない。
「ほらしっかり飲みなよ」
首を切り裂いたのに、彼は痛みなど感じていないような笑みだ。ゾッとする程美しい微笑み。
いよいよ恐慌と恐怖に陥れられた精神の中で。
確かに感じて居たのは渇望。
―――人狼である彼の血への欲求だった。
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