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でも、駄目でした。目覚ましかけ忘れて、朝から寝坊。運悪く、お母さんも寝坊。
支度に右往左往する私の後ろから、お母さんが説教を垂れながら付いてくる。
まだ私、学生なのに、「社会人は時間を守らないといけないのよ!」なんて。自分だって時間にルーズなのに、そのことを棚に上げて、もう!
五月蠅いという漢字を考案した人、六月蠅いとかも考えて欲しかった。
とにかく、家を飛び出る。駅まで走る。階段を駆け上がり、ちょうど来た電車に飛び乗る。
すると、こういうときに限って電車は線路に張り付き、ドアが開いたまま発車しない。
なんか、遠くの方でザワザワしている。
――走れ、メロス号!
やっと発車したと思ったら、「お客様同士のトラブルのため、7分遅れて発車しました」って、淡々とした車内アナウンスが……。
――ユウは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の迷惑客を除かねばならぬと決意した。
……という怒りは、止まっている間に増えてきた乗客が蛇行する車両に合わせて大きく揺れ、左右からグイグイ押して靴まで踏んでくるので、そっちに矛先を向けることになる。
移り変わる車窓の景色と腕時計との間を視線が往復すること30分。ようやく目的地のA駅へたどり着いて、ちょっと胸をなで下ろすも、苦難は続く。
このA駅からバスに乗るのだけれど、これに乗らないと間に合わないというバスに目の前で発車された。あんなに手を振って「すみませーん!」って叫んだのに。
両膝に手を当てて呼吸を整え、急いで方向転換。近くのタクシーを探す。
すると、いた!
ちょうど一台、客待ちで止まっている。手をブンブン振って後部座席のドアを開けてもらい、そこへ滑り込む。
「○丁目の○○ビルまで、急いでお願いします!」
私の服と態度から、いかにもな事情を察した白髪の運転手さんは、前を向いたまま無言で軽く頷きドアをバタンと閉める。
すぐさま、ブロロロローッと発車。全身で感じる気持ちのいい加速。これは、期待できそう。
車は、抜け道らしい路地に入り、クネクネと進む。安全運転の限界を越えているだろうことは、このスピードと加速でわかる。見たこともない土地の風景が、次々と後方へ飛んでいく。
(大丈夫かなぁ、このスピード……。急いでとは言ったけれど)
一方で、気になるのは時間。
腕時計を見ると、あと5分。それまでに席に着いていないといけない。心配になってきた。ちょっと、運転手さんに聞いてみよう。
「あと、どれくらい――」
と、私が運転手さんに声をかけたその瞬間――、
キイイイイイイイイイイィ!!
突然、タイヤが悲鳴を上げた。体が前に投げ出される。助手席に額と鼻をひどくぶつける。そして――、
ドスン!! ガッシャーン!!
後ろからお腹に響く衝撃とガラスが割れる音が同時に襲ってきたかと思うと、全身に激痛が走り、あっという間に目の前が真っ暗になった。
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