2.アルバイトに採用されました

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 彼は、三毛猫。それを可愛らしくデフォルメして、ちょっとぷっくりした着ぐるみに変えた感じ。若草色を基調とした服を着て、赤いネクタイを()めている。この服、どこかのコンビニの制服に似たデザインだ。 「あっ、驚かせてゴメン。シャンマオが言っていた、バイトの子って、君?」 「はあ……」  ここにいる理由付けがちゃんと出来ていなくて間が抜けた返事をする私を彼はジロジロと見て、最後は頭の先からつま先までゆっくりと見た。 「バイト志望ながら、ずいぶんと気合い入ってるねぇ」 「はあ、……まあ、服は就活っぽいですが、どうしてこれを着てここにいるのかまでは――」 「うん、採用だ」 「えっ?」 「僕は、ミケーネ。店長だよ。君の名は?」 「お、()()()()ユウ――です」  シャンマオさんの時と同じく、動揺しながら名乗ると、ミケーネ店長はニッと笑った。  やはり、目の前にいる動物は、どう見ても着ぐるみではない。この世界――ゲームの世界――には、しゃべる動物がいるのだ、と確信した。 「ユウさん。いや、ユウちゃんでいいかな? ノインエルフへようこそ。仲間と一緒にお店を経営しようよ」 「はあ……、は、はいぃ!? 経営!?」 「さあ、レッツゴーだ!」  ミケーネ店長は、大して握っていない拳をお店の方へ向け、呆れる私を置き去りにしてスタスタと歩いて行った。 (バイト採用で経営?? バイトと言うからレジ打ち、品出し、清掃かと思っていたら、いきなり経営だなんて、ノインエルフってどんな会社なのかしら?) 「どうしたの? 何ボーッとしているの? 早くおいでよ」  その言葉に、ミケーネ店長がこちらを振り向いて立ち止まっていることに気づいた。 「は、はい」 「ここはね。現実世界とおんなじなんだけど、夢と魔法の世界なんだ」  店長の、どこかで聞いたことがある言葉に、私は目を白黒する。 「えっと、夢と魔法の世界なら、現実世界とおんなじじゃなくて、ファンタジーの世界なのではないですか?」 「ハッハッハッ! 細かいことは気にしない気にしない! それより、さあ、早く!」  店長の手招きというか、猫招きに誘われて、私は足を踏み出す。  正直言って、ここで店長に逆らって背を向けてもどこへ行っていいのかわからず、考えたところで結局のところ従うしかない。  それにしても、ゲームのキャラクターが、「ここは夢と魔法の世界」と思い込んでいる。実に不思議。そういう風にプログラムされているのだろうか。 「ほら、また何か考えている。おいでおいで」 「はい、すみません」  実に目が行き届く。だから店長が務まるのか。  それにしても、ゲームだから、キャラクターはシナリオ通りの台詞のはず。それが、そうとは思えないほど自然の会話になっている。もしかして、台詞は存在せず、AIが状況に応じた的確な言葉を選んで私と会話しているのだろうか。  などと考えながら、私は、店の中へ入っていく店長の背中を追いかけた。
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