3.ゼロから始まったお店経営

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3.ゼロから始まったお店経営

 私は首を縮めるようにして、恐る恐る建物の中に足を踏み入れた。そうして、ノインエルフというお店がどんなお店なのかを、目をこらして辺りを(うかが)う。  建物の中は、横と奥行きと高さが同じ長さの立方体。確か、建物一階分の高さは3メートルほどで、目検討で四階だったので、一辺は12メートルあると思う。  天井まで吹き抜けで、見上げるとクールな白色の蛍光灯が二本、(こう)(こう)と光っている。  驚いたことに、この天井も壁も床も、外壁と全く同じ茶色をしている。  中はがらんどうではなく、入って左横にレジを置いたカウンター、部屋の中央に三段の棚が一つ置かれている。御多分に洩れず、レジも棚も什器は全部茶色で統一されている。棚には何も置かれていないので、奥まで茶色になっているのが見える。  新居というか、新事務所に引っ越してきたばかりという雰囲気。  私が室内をじっくり観察していると、 「どうだい? 広々としているだろう?」  ミケーネ店長が両手を広げて辺りを見渡す。声は自慢げで、自虐の感じはしない。 「広々というか……ほとんど何もないですね」  そう言葉を返した私は、さらに「色も蛍光灯以外茶色で統一感がありますね」と追加したら皮肉に聞こえないだろうかと迷っていると、突然、レジの方から男性の声がした。 「そうだよ。何もないよ」  店長しか見えていなかったのに、もう一人いる!  慌てて私はレジの方を向いた。すると、黒と茶色と薄茶色の混じった()()()模様の背中がムクムクとせり上がってきた。 「ふー! レジの下の掃除、終わりっと!」  上半身を起こしたその人は、私の方を向いた。  一瞬、チーターに見えたが、よく見ると私と同じ背丈のベンガル種の猫。それが、店長と同様に可愛くデフォルメされ、ぷっくりした着ぐるみに見える。ただし、店長と違って、制服は着ておらず、裸の猫の状態。これは、シャンマオさんも同じ。 「店長。その子、誰?」 「ああ、ユウちゃんだよ」 「新入り?」 「そう」 「また入り口で拾ったんでしょう?」  店長はその問いには答えず、「紹介しよう。バイトリーダのアルバートくんだよ」と私に言う。 「それとも引き抜き?」  それにも答えない店長は、「アルバートくん。ユウちゃんに仕事を与えて」と指示する。 「ないよ。掃除は終わったし。品物は売り切れたし。オーナーは、自分で仕入れるモードにしているのに、なーんにも仕入れないし」  首を左右に振るアルバートさんは、「これじゃ開店休業だね」と肩をすくめる。  見た目は着ぐるみっぽいけれど、これも着ぐるみではなく、動きが人間っぽくて流暢にしゃべる動物。これは、ファンタジーだ。  結局のところ何もすることのない私は、店長とアルバートさんから、このお店『ノインエルフ』について話を聞くことにした。  お店のオーナーさんは、このゲーム『お店作っチャオ』のベータ版からやっているプレイヤーで、名前はシーポさん。Chief Privacy Officerの頭文字を取ったCPOから来ているらしいとのこと。店長達は、プレーヤーのチャットを閲覧できるらしく、そこのやりとりからこの情報を拾ったらしいが、CPOは最高個人情報責任者のことで、リアルなお仕事がそうなのかはまでは不明。  お店の名前である「ノインエルフ」は、9と11のドイツ語のことらしい。てっきり、ノインという名前のエルフ族かと思った。シーポさんはその真ん中に挟まれた10の数字がリア充を意味するのでつけた、とは店長の言葉だけれど、これもチャットから仕入れた情報のよう。  でも、チャットではみなさん、どこまで本当の話をしているのかしら……。
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