ラミーとバッカス

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 四季折々の風情を感じさせるのが特徴の和菓子に対し、洋菓子は一年中同じものが食べられる。  その中で、その二種類のチョコレートにはめずらしく「旬」があった。  赤い箱、干しぶどうをラム酒に漬けこんだラムレーズンをふんだんに使用したチョコレートバー、ラミー。  緑の箱、フランスはコニャック地方で作られるブランデーをブロックチョコレートの中に閉じこめ、ギリシャ神話の酒の神様の名前を頂いた、バッカス。  ともに1960年代にロッテの主力商品として発売され、人気を二分する二種類のチョコレートは秋冬の限定商品として発売される。  小梅が差し出したそれはまだ封が切られていない。チョコレートは日持ちがするとはいえ、大事にとっておいてるのも妙な話だ。 「だって、お酒が入ってんだべ。二十歳になんねのに食べたら毒だ」  叔父がたまらず吹き出した。いくら突っ張ってみても子供は子供だ。 「ウメコ、それをくれた二人、どんな格好してた?」 「どっちも真っ赤なジャージだ。一人は髪が短くて、横さ刈り上げて上をツンツンに立たせてた。もう一人はロン毛だ」 「・・・その二人な、男ではね。おめと同じおなごだ」 「んなわけねえべ。だって、この寒いのにTシャツ着てて、腕なんかおらの腰周りよりも太かったのに」 「だから今から、それを話す。その二人のことを」
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