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・・・気が狂うかと思うほど暑い日でね。
浜辺は日向水だから遠くまで泳ぎに行ってしまったんだと。三人で。
戻ってきた時は二人だった。
一人の足がつってしまってね。足の届かないところで必死に二人して引っ張り上げようとはしたんだけど、どんどん沈んでしまう。
このままでは共倒れだと思ったんだろう、助けようとする二人を突き飛ばした。
ライフセーバーがようやく二人を救助した。でももう一人いる、って。
おらが駆けつけた時は、もう遅かった。
こんな仕事さしてっと、時々道端なんかで声かけられるんだ。あの時は助かりましたって。はぁどうもとか合わせるんだども、顔なんか全くおぼえてねえのさ。
忘れらんねえのは、助けられなかったほうの顔さ。
水吸ってパンパンになった仏さん。それにすがりついて泣き叫んだり、ライフセーバーに食ってかかるご遺族。
二人は砂浜に額さこすりつけて何度も謝ってた。ごめんなさい、ごめんなさいって。
仏さんを彼岸、遠くの世界にまで追いやってしまったのは確かにこの二人だ。だども、別に死んでしまうのはこの二人のほうでもおかしくはなかった。
何より二人は沈む仏さんを救おうとした。最後の最後まで、つかんだ腕を自分らからは離そうとはしなかった。
だから、その時だけは、誰も二人を責められなかった。
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