【番外編】お赤飯には程遠い(前編)

1/2
前へ
/93ページ
次へ

【番外編】お赤飯には程遠い(前編)

 後輩を一人連れてくる。  孫から電話で伝えられた時、秋本十蔵は珍しいと単純に思った。誰かを連れてくることが、ではない。わざわざ電話で事前に断りを入れることが、だ。  孫の一人、秋本千歳はちょくちょく同級生や後輩を十蔵宅に連れてくる。理由は単純明快。無料で使える便利な練習場所だからだ。  都内の駅から徒歩五分。閑静な住宅街にある一軒家と好立地。さらに二階の一部屋ーー電子オルガンを置いた部屋には防音措置が施されている。元々は千歳の叔母(つまり十蔵の娘)がオルガンピアノを習い始めたために用意した部屋だった。本人が独立した今、オルガン部屋を使うのは千歳だけ。ピアノ伴奏との合わせや三重奏の練習等々、事あるごとに活用している。  千歳が帰省するイコール、誰かとオルガン部屋で練習。そんな図式が出来上がるのに、時間はかからなかった。  千歳が言うまでもないことをわざわざ告げる。そこはかとなく違和感を覚えながらも十蔵は追及しなかった。久しぶりだから千歳の好きなモツ煮を用意しておくかと考えた。年頃の男子高校生二人なら多めに作っておいた方がいいだろう。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加