【番外編】お赤飯には程遠い(前編)

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 千歳が言っていた『後輩一人』が他校の異性だと知ったのは、十蔵が庭で下ごしらえを終えた頃だった。  小屋と呼べるほどの大きさの物置前、水場も近いのでもっぱら十蔵は庭で料理をする。  物置きから取り出したカセットコンロの上に鍋を置いた。モツと一緒にこんにゃくやにんじんを投入。水と味噌をぶち込んで鍋を火にかける。あとは味を見ながらひたすら煮込むだけ。 「来たぞー」 「おー久しぶ……」  孫の声に顔を上げてーー十蔵は固まった。手から滑り落ちたオタマが地面を転がる。 「な、ななななななな」 「ンだよ、その反応は」  千歳が拾い上げたオタマで十蔵を示した。傍らの『後輩』に端的な紹介をする。 「これ、俺の祖父」 「はじめまして。伊藤雪見と申します。秋本さんにはいつもお世話になっております」  折り目正しく一礼。大人しそうな、小柄な体格もあいまって小動物を彷彿とさせる女の子だった。  そう、女の子なのだ。千歳が、オンナノコを連れてきたのだ。 「万里子、今日は槍が降るぞぉ!」 「なんでそういうことになんだよ!」  千歳の怒声を背中に受けつつ十蔵は縁側から家の中、居間に飛び込んだ。台所で片付けをしていた妻の万里子が何事かと顔を出す。 「一体何の騒ぎ? じーちゃんったら……あら」  万里子が目を瞬いた。 「お庭から突然、すみません。私、伊藤雪見ともう、」 「ちー、どうして先に言わないの! お嬢さんを連れてくるなんて聞いてないわよ」 「電話で言っただろ」  千歳はめんどくさそうに反論し「その呼び方やめろ」と付け足した。万里子が咎める眼差しを十蔵に向ける。 「ちーからは『後輩』を一人連れてくるとしか聞いてなかったぞ!」 「嘘じゃねえよ。他校の二つ下。あと『ちー』って呼ぶな」 「やっぱりちーが悪いんじゃない。どうしてあなたはいつも言葉が足りないの」 「そうだぞ。ちーが可愛い女の子を連れてくるなら、こっちにだってそれなりに準備をというものがある」  祖父母に責め立てられた千歳は真っ向から逆ギレした。 「だからァ! ちーって呼ぶなっつってんだろうが!」
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