【番外編】お赤飯には程遠い(中編)

2/2
前へ
/93ページ
次へ
 久しぶりの孫との対局。とはいえ、近況報告を兼ねた雑談混じりのゆるい試合だった。 「結納はいつだ」 「しねェって」 「向こうの親御さんにはもう挨拶したのか」 「なんで挨拶すんだよ」 「どう見たってアレは良いところのお嬢さんだろう? 実家が格式と伝統を重じている可能性は高い。礼儀だけは尽くしておけ。結婚に反対されたらどうするんだ」 「だから、結婚しねーって」  歩を打とうとした十蔵の指が止まった。 「結婚、しない……?」 「さっきからそう言ってんだろ」 「それは……アレか。ジジツコンという、最近流行りの」 「流行ってねえし、そもそもそういう関係じゃねえよ」  千歳は十蔵が打ったばかりの歩を躊躇いなく取った。 「ただの後輩」  お言葉だが、何の意図もなくただの後輩ーーそれも音楽とは関係のない娘を実家に連れてくるとは考えられない。 「お前にそのつもりがなくても、向こうは意識しているかもしれないぞ」  千歳は鼻で笑った。 「……手が好きなんだとよ」 「は?」 「俺の、手」
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加