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【番外編】お赤飯には程遠い(後編)
千歳がひらひらと左手を振ってみせる。マメだらけで弦の跡が残る指。筋張っていて、ひいき目に見ても綺麗とは言えない手だ。
「手を?」
「そういう奴なんだよ。おまけに思い込んだら一直線で、周りの目なんか気にしやしねえ」
だから他意はないのだと千歳は言う。ただ単純に、レトロな井戸を見たいだけ。異性の実家に訪問する意味など考えていない。周囲がどう受け止めるかも。
ともすれば憐憫の眼差しを注ぐ十蔵に、千歳は「勘違いすんな」と悪態をついた。
「俺だってあんなオジョウサマ願い下げだ」
「そ、そうなのか……?」
「話聞かねえ、鈍臭い、母親が変、手フェチ、音痴、図々しい、思い込み激しい、そのくせ変なところで卑屈になる。全っ然タイプじゃねえ」
酷い言い草だ。口の悪い千歳とはいえ、ここまでこき下ろすのも珍しい。そうして十蔵が気を取られている間に千歳が王手を掛けた。
「あ、待った」
「待ったなし」
無情な孫を睨む。千歳はまたしても縁側の向こう、オジョウサマを眺めていた。
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