【番外編】自画像

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【番外編】自画像

 自画像というものは簡単なようで難しい。鏡やカメラを使わないと被写体をじっくり見れない。いつもと左右逆だ。その上どうしても主観が入る。客観的な観察を心がけながらも絵描きとしての思想を、って結局どっちなのだろう。  悪戦苦闘の果てにようやく形になった自画像は、それなりに満足のいく出来だった。ちょっと美人に描いてしまったような気もするが、そこはご愛嬌だ。  雪見は時計を確認して、身支度をした。午後は銀座の文具店に行くつもりだった。画材の補充ーーは口実。お目当てはその店でアルバイトをしている千歳。千歳のシフトが合えば、午前で終わりなら二人で銀座の楽器店や書店を回れる。  帰る頃には絵の具も乾いているだろう。布だけ被せてイーゼルに絵を立てかけたまま雪見は鼻歌混じりに自室を出て、施錠した。  そう、しっかりと鍵は掛けたのだ。  施錠されたはずの扉はしかし、雪見が外出してから三分も経たない内に開けられた。 「甘いぞ雪見」  ピッキング道具を手に柚子は得意顔。 「こんなちょろい鍵を掛けた程度で引き下がると思ったか」 「引き下がりますよ、普通の母親は」  呆れ顔で桜が指摘するが、柚子はどこ吹く風。意気揚々と雪見の部屋に侵入した。 「七人も母親がいる時点で普通じゃないのはわかりきったことじゃない。雪見も雪見よ。隠してもどうせ無駄なんだからさっさと見せればいいものに……」文句を言いながらもちゃっかり便乗して、入室する真弓「で、あの子、今度は何を描いたの?」 「まさかまた秋本氏を描いたんじゃないだろうな」 「はあ? 私を描かずにあの男ばっかり描くなんてどういう了見よ! ひどい侮辱だわ。あんなガラの悪い男のどこがいいの!?」 「年頃の娘の部屋に忍び込み、ヒステリックに喚く方よりはマシですわ」  しれっと毒を吐いたのは百合。真弓の額に青筋が浮かぶ。 「あら、それは私のことかしら?」 「まあご自覚なさっていないのですね。お可哀想に」 「ここで喧嘩するな!」と柚子が止めに入る「とりあえず現物を確認しよう。話はそれからだ」 「あのー……そもそも勝手に絵を見るのはいかがなものかと」  桜の制止も振り切って、絵に手を伸ばす真弓と柚子と百合。が、その鼻先をBB弾が掠めた。 「触ルナ」  エアガンを構えて雪見の部屋のクローゼットから出てきたのは菫だった。 「あ、危ないだろ!」 「去レ」  抗議の声を上げる柚子に、菫は無表情で銃口を突きつける。 「ちょっとあんた達、さっさとお昼ご飯食べてよ。片付けたいんだから」  ひょっこり顔を出したのは家事全般を担当している椎奈。他の継母五人を見回し「雪見の部屋で何やってるの?」と訊ねる。 「また騒ぎを起こしたら椿様に怒られるわよ」 「母親として娘の素行を調べるのは当然のことだ」  柚子が胸を張って答えるが、やっていることは立派なプライバシーの侵害だ。
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