色川浅葱

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 飲み過ぎて、へべれけになった諏訪がカウンターで熟睡している。 「諏訪さん、起きて」  レンゲちゃんが無理やり起こして歩かせるが、千鳥足で心配になる。  レンゲちゃんは、炎加に諏訪の世話を頼んだ。 「炎加、タクシーに乗るまでついていってあげて」 「承知しました」  炎加が諏訪に肩を貸して、二人で店を出ていく。 「浅葱ちゃーん、またねー」  諏訪が大きく手を振った。 「気を付けて帰ってくださいね」  人のことを心配できるほど、浅葱もしっかりしていない。  お会計を済ませて店を出ようとすると、レンゲちゃんが不思議なことを言った。 「ホームでは端に立っちゃだめだよ」 「え? どういうこと?」 「家に帰った後、すぐにまた会社へ行くため、電車に乗ろうとするよね?」 「まあ、乗るけど。乗らなきゃ出社できないもの」 「その時に、あなたはホームの端に立とうとするけど、列の後ろの方に並ぶといいよ」 「後ろの方に?」 「そう。もし、また辛いことがあったら店に来て。ご馳走するから」  レンゲちゃんが心配してくれていることはよく分かるので、浅葱が肯いた。 「それともう一つ」 「まだあるの? 今度は何?」 「この丑の刻横丁は、深夜1時から3時までしかやっていないので、来るときは時間に注意してね」 「蘇芳だけでなく、横丁のお店が全部?」  横丁には、焼き鳥屋、居酒屋、バー、カフェ、レストランが並んでいる。  気付くと、どこも一斉に店じまいを始めている。  看板の明かりを消し、暖簾を外し、外に並べた椅子とテーブルを片付けていく。 「連帯感が強くない?」 「言ったでしょ。ここはあやかしたちの横丁だって。あやかしは、丑の刻だけ活動するの」  レンゲちゃんはニッコリと笑って言った。 「あー、はいはい。変わった横丁ってことね」  レンゲちゃんの話を浅葱は半分だけ聞いた。  丑の刻は、午前1時から3時。つまり、毎日2時間しか働かないってこと。 (こっちは毎日15時間働いているっていうのに)  羨ましいことだ。  家に帰ると、さっさと布団に潜り込んですぐに寝てしまった。
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