170人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
久しぶりに熟睡できた浅葱は、少ない時間でも気持ちよく目覚めることができた。
「はあー、よく寝た」
たくさん飲んだのに、お酒も残っていない。
シャワーを浴びて身支度を整えると、いつものように家を出て、いつものように駅に行く。
ホームにつくと、電車遅延でいつもより混雑していて、乗客たちが少し苛ついていた。
「今朝も遅延?」
浅葱は行列に並ぶのを早々に諦めてホームの端に立つ。
――ドン。
後ろを歩くOLに小突かれてよろける。
(まただ、昨日もあった)
同じ人だろうかと顔を見ると、服装まで全く同じだった。
(連日同じ服? きっと、変な人ね)
関わり合いにならないようにする。
ポケットのスマホが鳴って、高校の同級生目黒早弥からメッセージが届いた。
(これも、同じ。2度目だ。内容も……)
同じ時間に同じ人から同じ内容で届いた。
(同じじゃない……)
どこかおかしいと、ようやく思い始める。
(私、同じ朝を2回経験してない?)
全てに既視感がある。
前回は、早弥のメッセージを読んだ時にめまいを感じた。
今日はそれほどではない。
アナウンスが流れる。
“間もなく1番線を特急が通過いたします。白線の内側に下がってお待ちください”
「このあと……どうなるんだっけ?」
ぼんやりした記憶を探り思い出そうとしていると、線路の向こうに炎加の姿が見えた。
「なぜ、そんなところに!?」
腕まくりしたTシャツ、ジーパン姿で、まっすぐ立って浅葱を見ている。
その立ち姿は、まるでイタチが後ろ脚で立ったかのようなフォルムをしている。
存在は薄く、陽炎のようにゆらゆら揺れている。
唖然とする浅葱の後ろから、レンゲちゃんの声が聞こえた。
「ホームでは端に立っちゃだめだよって言ったよね」
振り向くと、レンゲちゃんがいるから吃驚して飛び上がった。
「レンゲちゃん!」
ピンク色の小紋を着たレンゲちゃんが、ニヒッと白い歯を見せて笑う。
髪をアップにまとめて、鉢巻き、エプロン、たすき掛けを着けていない。
ピンク色に光る丸いぽっぺが子どもらしくプニプニしている。
最初のコメントを投稿しよう!