色川浅葱

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◇  久しぶりに熟睡できた浅葱は、少ない時間でも気持ちよく目覚めることができた。 「はあー、よく寝た」  たくさん飲んだのに、お酒も残っていない。  シャワーを浴びて身支度を整えると、いつものように家を出て、いつものように駅に行く。  ホームにつくと、電車遅延でいつもより混雑していて、乗客たちが少し苛ついていた。 「今朝も遅延?」  浅葱は行列に並ぶのを早々に諦めてホームの端に立つ。  ――ドン。  後ろを歩くOLに小突かれてよろける。 (まただ、昨日もあった)  同じ人だろうかと顔を見ると、服装まで全く同じだった。 (連日同じ服? きっと、変な人ね)  関わり合いにならないようにする。  ポケットのスマホが鳴って、高校の同級生目黒早弥からメッセージが届いた。 (これも、同じ。2度目だ。内容も……)  同じ時間に同じ人から同じ内容で届いた。 (同じじゃない……)  どこかおかしいと、ようやく思い始める。 (私、同じ朝を2回経験してない?)  全てに既視感がある。  前回は、早弥のメッセージを読んだ時にめまいを感じた。  今日はそれほどではない。  アナウンスが流れる。 “間もなく1番線を特急が通過いたします。白線の内側に下がってお待ちください” 「このあと……どうなるんだっけ?」  ぼんやりした記憶を探り思い出そうとしていると、線路の向こうに炎加の姿が見えた。 「なぜ、そんなところに!?」  腕まくりしたTシャツ、ジーパン姿で、まっすぐ立って浅葱を見ている。  その立ち姿は、まるでイタチが後ろ脚で立ったかのようなフォルムをしている。  存在は薄く、陽炎のようにゆらゆら揺れている。  唖然とする浅葱の後ろから、レンゲちゃんの声が聞こえた。 「ホームでは端に立っちゃだめだよって言ったよね」  振り向くと、レンゲちゃんがいるから吃驚して飛び上がった。 「レンゲちゃん!」  ピンク色の小紋を着たレンゲちゃんが、ニヒッと白い歯を見せて笑う。  髪をアップにまとめて、鉢巻き、エプロン、たすき掛けを着けていない。  ピンク色に光る丸いぽっぺが子どもらしくプニプニしている。
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