色川浅葱

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「ビックリした! どうしてここに?」 「また同じことにならないか、心配になって見にきたの。こっちにきて」  レンゲちゃんが浅葱の手を取ると、ホームの端から離れさせた。  ホーム横を特急電車が強風とともに通過していく。  それを見送った。  通り過ぎた後、炎加の姿は消えていた。 「炎加さんがそこにいたけど……。幻?」 「いたよ。もしもの時に助けるつもりで。もう大丈夫だと思って消えたようね」  炎加の姿は他の人に見えていないのか、気にするものはいない。 「一体、どういうこと?」 「断片的に覚えているよね。ここであったこと」 「うん……」  迫りくる特急電車。  警笛。  線路に落下して、後悔の念を抱いた。  記憶が少しずつ戻ってきて、浅葱は急に怖くなって体が震えだした。 「どうして、怖くなるんだろ?」 「それはね、現実にあったことだから。心が死の恐怖を覚えているから、震えるんだよ」 「でも、私はこうして生きているよね」  浅葱が自分の体を触る。実体のある感触に生きていることを実感する。  レンゲちゃんが小さく首を振った。 「私が過去に戻したからね。何もしなければ、あなたは死んで終わりだった」 「過去に戻した?」  慌ててスマホのカレンダーを見た。 「日にちが……、戻っている?」 「そう。今日はあなたがホームに飛び込んだ日の二度目の朝。蘇芳で目覚めたのは、死ぬ前の夜1時」 「そんな……」  衝撃が大きすぎて絶句する。  作り話と思いたいが、記憶が証言する。  すべて実際に起こったことで現実だと。
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