色川浅葱

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「全部覚えていると、心が壊れてしまうから。記憶に蓋をしていた。でも、完全に忘れてしまうと、同じ過ちを繰り返してしまうでしょ。だから、少しずつ思い出すようにしてある。心が受け止め切れるように、少しずつ、少しずつ……」  それで断片的に思い出したのかと腑に落ちる。 「レンゲちゃんは過去に戻すことができるの?」  レンゲちゃんは肩をすくめた。 「まあね。でも、何も変えなければ、同じことが起きるんだよ」 「じゃあ、私、結局死ぬんだ」 「だから止めに来たんじゃない」  レンゲちゃんはほほ笑んだ。 「そうか……」  浅葱は前回のことを思い出してきた。  忙殺される日々の中、ストレスの溜まることが増えて浅葱はずっと苛立っていた。  過度に張り詰めた精神状態。心が壊れる引き鉄を引いたのが、早弥からのメッセージだった。  早弥は、高校の同級生で同じ美術部員。お互いに腕を競っていた仲。自分の方が優秀だったと自負している。  高校卒業後、浅葱は就職し、早弥は芸大に進学。  バイトもしないで創作活動に打ち込み、卒業しても就職せず、芸術活動を続けている。  その早弥が個展を開くと知って、猛烈に嫉妬し、すべてが虚しくなった自分は、衝動的にすべてを終わらせたくなって線路に飛び込んだのだった。  でも、今回は違った。  蘇芳で元気を回復していたから、冷静さを失うことなく事実を受け止められて線路に飛び込まないで済んだ。  レンゲちゃんと炎加が見守っていてくれたのも大きい。
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