色川浅葱

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 ――「これ、急いでカラーコピーで20部! ホッチキス止めしたて第三会議室へ持ってきてくれる?」  浅葱のところに、30代のサブリーダーがオリジナル原稿を慌てて持ってきてコピーを頼んだ。 「はい。分かりました」  今日中に仕上げなければならない提案資料を作成中だったが、急ぎとのことなので、その手を止めて立ち上がり原稿を持ってコピー機のところへ行った。 「カラーコピー、20部、ソート、ホッチキスは左上、っと……」  ピッ、ピッ、ピッ、ピッと、パネルをタッチする。  自動紙送り機に置いた原稿がみるみるうちに吸い込まれていく。  それと同時にコピーされた紙が排出されていく。  一冊分が刷られると、まとめてガチャンとホッチキス止めされる。  原稿は全部で10枚。  それを20部。  200枚のコピー。  時間は多少掛かるが、ソートしてホッチキス止めまでコピー機がやってくれるから手は掛からない。  でも、横で見ていなければならない。  資料作りとコピーは両立できない。  ガチャン、ガチャンと動くコピー機を見ているうちに、前にも見た感覚に陥る。  それもそのはず。  この会社ではコピー取りは新人の仕事。  浅葱はグラフィックデザイナー職で採用されていたが、いくら専門職でもプロジェクトチームの中では一番の新入り。先輩たちの雑用が集まってくる。  そんなことだから自分の仕事に集中できず、一日中細切れになる時間のはざまで、同じような業務をこなしている。  15分ほどで完成したコピーの束を持って第三会議室へ行くと、サブリーダーをこっそりと呼び出して手渡した。 「できた?」」  サブリーダーは、パラパラと中を確認して、疑問を投げかけた。 「あれ? 両面で良かったのに」 「原稿が片面印刷だったものでその通りにしました」 「まあ、いいや。これで」 「すみませんでした」  サブリーダーは引っ込むとバタンとドアを閉めた。  浅葱は少し落ち込みながら自席に戻った。 「両面なら、そう指示してくれればいいのに」  それにお礼も言われていない。  会議のことで頭がいっぱいなのは分かるが、サブリーダーはいつも心に余裕がない。  浅葱の職務はアシスタントでも事務のルーチンワークでもなく、デザインという正解のない仕事のため時間だけ働くという概念がない。それで残業代も出ない。  完成まで何日掛かるか分からず、完成してもそれがお金になるか分からず。  クライアントに選ばれなければ無駄となるから、できるだけたくさんの提案書を準備しなければならない。  そうなると、どうしても納期前は残業だ。
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