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「う……、ううん……、いい匂い……」
色川浅葱は、とても美味しそうな匂いが鼻先に漂っていることに気が付いた。
その匂いは、母の手料理を彷彿とさせてくる。
母の面影まで浮かんできて、『浅葱ちゃん、これぐらい食べる?』と、白いご飯を茶碗によそって渡してくる。
それを受け取る。
炊きたてご飯の匂いを嗅ぐと、なぜか涙が出てきた。
「お母さん……」
食卓の上には母親自慢の料理が沢山並んでいる。
どれから食べようかと目移りしているうちに目が覚めた。
料理も白ご飯も目の前から消えた。
だけど、匂いは消えていない。
「ハッ……あ、あれ?」
周りを見るとどこかの居酒屋にいる。
「私、寝ていた? でも、ここって、どこ?」
知らないお店のカウンターに座っている。
白木の一枚板。
目の前に段差。
上に杉皮葺きの庇が飛び出ていて、古い日本家屋を連想させるが、天井があるので室内だ。
「お酒を飲みながらうたた寝していたのかな……。それにしても、こんなお店に入った覚えはないけど……」
「目が覚めた?」
厨房から出てきた小さな女の子から声を掛けられて目を疑った。
「え?」
白紐でたすき掛けした着物に白い前掛け。髪をアップにまとめて白い鉢巻きをしている女の子は、どうみても子どもだったからだ。
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