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「私、過去に行ってみたい」
「何年の何月何日?」
「高校三年生の11月1日。進路を決めた日なの。本当は大学進学したかったんだけど、諦めて就職を選んだ日なんだ。それを変えたい」
自分だって、大学進学していれば、今のようなつまらない会社に就職しないですんだ。
早弥のように自分の腕だけで勝負して、新進デザイナーとして業界から注目されていた。
(だって、美術部では私の方がいつだって評価が高かったんだもの!)
一度だって負けたことなどなかった。
同じ状況なら自分だって個展が開けたはず。
今の会社は個人の才能よりチームワークを重視する。評価方法が変なだけ。
そんな不満が心の中で爆発する。
もしやり直せるなら、あの日に戻って、何が何でも大学進学を決める。
浅葱の真剣な目に、レンゲちゃんは、「分かった」と引き受けた。
「じゃ、行こう。その日に」
レンゲちゃんは、浅葱の両手を固く握る。
「飛ぶよ。目をつぶって」
飛ぶと言われて、どんな状態になるか分からず怖かったが、レンゲちゃんの手の温かさを信じて目をつぶった。
「目を開けていいよ」
「え?」
時間が経つ間隔もなく、飛んだ感覚もない。
「浅葱さんは女子高生だね」
「あ、本当だ」
高校の制服を着ている。
「懐かしいなあ」
「これから過去の一日を過ごす。同じ体験をすることになるけど、その中で答えをみつけるんだよ。じゃ、私は陰で見守っているから」
「ありがとう」
レンゲちゃんはスウッと消えた。
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