170人が本棚に入れています
本棚に追加
背も低いはずなのに、カウンター越しに浅葱を見下ろしている。
足元に踏み台でも置いているのだろうか。
「えーと……、私……」
「細かいことは考えなくていいから。これ、食べなよ」
「これ、食べなよ?」
勢いよく目の間に置かれた長皿には、三種のつまみが乗っている。
「今日のお通しのおばんざいは和え物三種です。左から、小松菜の胡麻和え、鶏皮ポン酢おろし和え、クラゲとカズノコのユズ胡椒和えです」
ビシ、ビシ、と、切れよく順番に指していく。
どれも日本酒に合いそうなお通しで、よだれが出てきた。
「えーっと、いただきます……」
状況がまだ呑み込めていないが、空腹を感じたので店の塗り箸を手に取ると口に運んだ。
「全部、美味しい!」
夢中で食べていると、女の子が聞いてきた。
「お酒は何にします?」
「えーと、メニューは……」
「はい、これ」
ドリンクメニューを渡してきた。
売りは日本酒のようで、種類が豊富。日本酒のソーダ割りやカクテルもある。
「たくさんあるのね。迷っちゃう」
ガッツリ飲むなら日本酒だが、ソーダ割りも軽く飲めそうで気になる。
「うちのおばんざいには日本酒が合うよ。今日のお勧めは奈良のみむろ杉」
「みむろ杉がお勧めって……」
まだ小学生の女の子から銘柄を勧められて戸惑う。
「子どもなのに、お酒が分かるの?」
「私、唎酒師の資格を持っているから」
「子どもなのに? って、いうか、なんで子どもが居酒屋で働いているの? 今、何時?」
腕時計を見ると、1時を指している。
「昼の1時からお酒って……」
「昼じゃないよ、夜だよ」
「夜の1時!? え、ちょっと、待ってよ。夜の1時って、いつの間に? あ、会社! いや、それよりも、子どもは寝る時間でしょ!」
出社のため駅に行ったところまでは覚えているのに、そこから先は記憶がない。
何から確認したらいいのか分からなくなったが、とりあえずの疑問は、子どもが深夜1時に働いていることだ。
最初のコメントを投稿しよう!