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「だめでしょ、こんなに夜まで働いていちゃ。いや、昼間でもダメでしょ。子どもが学校に行って、遊んで、お風呂に入って寝るのが仕事」
「私なら平気です。働くことが好きだから」
好きとか嫌いとかの問題ではない。
きっと洗脳されているのだ、なんてずるい大人たちだと浅葱はヒートアップした。
「子どもに働かせる店なんて、おかしいし、まともじゃない。ブラック! そうよ、ブラックよ! ここはブラック居酒屋だわ! 責任者は誰よ?」
さすがに頭にきたので、責任者に文句を言ってやろうと厨房内を捜した。
奥を覗くと、白い鉢巻きの青年が背中を向けて大きな天麩羅鍋の前に立っている。
「あの人? 責任者にしては若そうだけど」
そして、頼りなさそう。それでも、女の子より年上だし成人している。
他に大人はいないようだから声を掛けた。
「あのー、すみません!」
「はい?」
青年が振り向くと、野性的な魅惑のオーラを放つイケメンだった。
「うわあ……」
一瞬、怯む。
「なんでしょうか?」
手に太い菜箸を掴んだまま近寄ってきた。
再び、「うわあ……」と小さく声が出る。
白いTシャツを肩までまくり上げて見せる腕の筋肉のたくましさ。むせずにいられない。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
(女の子を守らなくては! しっかりと社会の常識を伝えて、子どもを働かせることを辞めさせなければ! ここはガツンと言ってやる!)
浅葱の中の正義感が勝った。
(ちょっと、子どもを働かせるなんて、どういうこと!?)
――と、なるはずだったのに、恥ずかしさが出てしまって声のボリュームが自然と2段階ぐらいダウンする。
「えーと、……あの、分かってないんですか? こんなに小さくいたいけな子どもを働かせることに問題があるって。しかも、深夜ですよ」
「あー、そういう事でしたら、本人と直接話し合ってくれたらと思います。では」
青年にはいまいち伝わっていないようで、元の位置に戻っていった。
揚げ物の良い匂いがしてくる。
天麩羅を揚げている最中だったようで、これ以上話すことはできないようだ。
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