色川浅葱

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「話はまだ終わっていないですよ。私は色川浅葱です、あなたのお名前は?」  振り向いてもくれなくなった。 「無視ですか!」  睨みつけた浅葱の目に、大きなイタチの姿が飛び込んできた。二本足で立って、天麩羅を揚げている。 「え?」  驚いて、息を飲み激しく瞬きする。  それは一瞬のことで、すぐ青年の姿に戻った。 「一瞬、変な姿に見えたけど……。見間違いよね。疲れているのかな」  戸惑っている浅葱に女の子が説明してきた。 「彼の名は炎加(えんか)です」 「べ、別に、どさくさに紛れて名前を聞こうとしていたんじゃないからね。責任者の名前を確認するためだから、誤解しないでね」  みっともなく言い訳する。 「この小料理屋「蘇芳(すおう)の責任者は、私、レンゲです。レンゲちゃんって呼んでね」  レンゲちゃんは、かわいいウィンクをした。 「まさか、信じられない。まだ、小学生よね」 「まさかもまさか。そうなんです。だから、責任者に責任を求めるなら、私にすべて言ってください。彼は責任者じゃなくて、ただの『従・業・員』です」  従業員の部分を強調する。 「向こうは大人なのに従業員で、レンゲちゃんが責任者。変わっているわ」 「なぜなら、ここは、あやかしたちの丑の刻横丁。人間世界とは違うからです」 「え?」  何を言っているのかと最初は思ったが、酔っ払い相手に使うお決まりのジョークなのだろうと考えた。
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