170人が本棚に入れています
本棚に追加
「話はまだ終わっていないですよ。私は色川浅葱です、あなたのお名前は?」
振り向いてもくれなくなった。
「無視ですか!」
睨みつけた浅葱の目に、大きなイタチの姿が飛び込んできた。二本足で立って、天麩羅を揚げている。
「え?」
驚いて、息を飲み激しく瞬きする。
それは一瞬のことで、すぐ青年の姿に戻った。
「一瞬、変な姿に見えたけど……。見間違いよね。疲れているのかな」
戸惑っている浅葱に女の子が説明してきた。
「彼の名は炎加です」
「べ、別に、どさくさに紛れて名前を聞こうとしていたんじゃないからね。責任者の名前を確認するためだから、誤解しないでね」
みっともなく言い訳する。
「この小料理屋「蘇芳の責任者は、私、レンゲです。レンゲちゃんって呼んでね」
レンゲちゃんは、かわいいウィンクをした。
「まさか、信じられない。まだ、小学生よね」
「まさかもまさか。そうなんです。だから、責任者に責任を求めるなら、私にすべて言ってください。彼は責任者じゃなくて、ただの『従・業・員』です」
従業員の部分を強調する。
「向こうは大人なのに従業員で、レンゲちゃんが責任者。変わっているわ」
「なぜなら、ここは、あやかしたちの丑の刻横丁。人間世界とは違うからです」
「え?」
何を言っているのかと最初は思ったが、酔っ払い相手に使うお決まりのジョークなのだろうと考えた。
最初のコメントを投稿しよう!