石見達弘

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「僕は取り返しのつかないことをしてしまったんだ。雫のせっかくのサプライズをぶち壊してしまった。……彼女を信じきれなくて、疑った自分が嫌になって、苦しくて……。雫のいない人生をこれからくだらなく消費するぐらいなら、雫の元へ行って謝ろうと火口に飛び込んだ……」 「あなたは二度命を助けられた! それを忘れちゃだめ!」  レンゲちゃんが怒る。  泣いている雪美。自分を助けるために危険を顧みず飛んできて、庇って負傷した炎加を見て、達弘は自分が悪いことをしたんだと自覚した。 「噴火の時にも命がけで助けてくれた人たちがいるでしょう? あなたがすべきことは、しっかり生きることなの!」  達弘のボロボロに擦り切れて渇いていた心に、レンゲちゃんの言葉が染み入る。 (そうだ……。僕は二度助けられている……)  そのことを思うと、情けなくなる。そして、もっとも大事なことを思い出した。  動けない自分を噴火の山から担いで下りてくれた救助隊の人たち。  助けられた命なのに、死のうとした。  自分は間違っていたと、目が覚め、猛省する。 「馬鹿なことをした。死ななくてよかった。ありがとう、炎加君。本当は、最後の最後に後悔したんだ……」  死を覚悟した時、生きたいという本能が呼び覚まされた。死にたくないと思った。そのことを印象強く覚えている。 「過去の自分は、あそこで一度死んだと思えばいいんだよ。生き直しはいくらでもできるんだから」 「その通りだな」  雫と救助隊に恥じない生き方をしなければと、改めて思う。 「炎加君、助けに来てくれて本当にありがとう。火傷までさせてしまって申し訳ない」  達弘は、炎加に頭を下げた。 「噴火時に助けてくれた救助隊の人たちにも、改めてお礼をしに会いに行くよ」  レンゲちゃんたち三人は、眩しいほどの笑顔になる。 「さてさて、これで一件落着! 一杯、いかが?」  レンゲちゃんは、達弘の前に漆塗りのおちょこを置くと、御嶽山を注いだ。 「心が弱まったら、いつでも蘇芳に来てね」 「その前に……」  達弘は、雪美の方に向いた。 「雪美さんに、一つ聞きたいことがあるんだけど……」 「私に? え、何?」  雪美の胸が高鳴る。 「もしかして、雪美さんもあやかしの仲間だったりする?」 「なーんだ」と、ちょっとがっかりした。でも、すぐに気持ちを切り替える。 「それは、今度二人きりの時に教えてあ・げ・る」  雪美は、達弘の鼻をチョンと人差し指でつつくと、胸に顔をうずめて甘えた。  ――達弘が、雪美といたはずのベッドの隣で寝ているオコジョに度肝を抜かれるのは、もう少し先のお話である。――
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