色川浅葱

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色川浅葱

**** “間もなく1番線を特急が通過いたします。白線の内側に下がってお待ちください”  いつもの駅のいつものホーム。  いつものアナウンスが流れている。  長い列に並んだ乗客たちは、特急通過をやり過ごして次にくる各駅停車に乗るつもりだ。  色川浅葱はホームの端に立っていた。  それは、いつものこと。  いつもの時間で、  いつもの場所にいる。  それなのにどうしてだろう。いつもと違う朝の気がする。  耳鳴りがする。  グワングワンと頭痛もする。  視界が霞んで、何も考えられなくなる。  この後は会社に行かなければならない。  高校を卒業して5年目。中堅デザイン会社でデザイナーとして働いている。  やってもやっても終わりのない仕事。  浅葱の場合は、それに加えて電話対応・受付対応・苦情処理、掃除などの雑用を押し付けられていて毎日忙しい。  昨夜も深夜残業で、家に帰ったのは0時を過ぎていて、5時間後にはこうして出社しようとしている。  特急が警笛を鳴らした。 “プワーーーーアン……”  耳をつんざく大音量。  迫りくる特急車両。  浅葱の体がグラリとバランスを崩して、頭から線路に落下した。  浅葱は、(私、何しているんだろう)と後悔したがすでに間に合わない。  初めて、今までの生き方を後悔した。 ****
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