第1話 二つの結婚指輪

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 でも。  それでもやっぱり私はこの日が好きだ。初めて夫婦を名乗った日からもう四年が経つが、今でもその結びつきをしっかりと保てているという単純な事実に、どうしようもない幸福を感じてしまうから。 「ねえーマーマー」  薄緑色のカーテン、ちょっと背の低いテレビ台、あまり中身の入っていない本棚、食卓に飾られたサルビアの花。この部屋で私たちと同じ時間を過ごしてきた品々だ。何の気なしに眺めているだけで、二人で過ごした日々が鮮明に蘇ってくる。思い返してみれば、この隙間風の吹く1LDKの安アパートは幸せそのもののように温かかった。 「ママってばー!」  キッチンのカウンター越しに、背の低い娘がピョンピョンと飛び跳ねながらしきりに私を呼んでいた。
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