第2話 誕生日にはメスシリンダーを

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 うすぼんやりとした街灯の頼りない光の下、アパートの方へ角を曲がる。今日はせっかくの誕生日だというのに、お構いなしに残業は襲い掛かり、結局帰路に就くのは九時を回った頃になってしまった。辺りはすっかり暗く、並んだ住宅の窓からこぼれる明かりが無ければ、一人で歩くには心細いほどだ。  しばらく歩くと木造二階建てのアパートが見えてきた。まだ寝るには早い時間だが明かりが点いている部屋はまばらだ。当然私の部屋にも明かりは点いておらず、初夏の夜特有の夏に成りきれていない冷ややかさに一層拍車をかけている。  私が住んでいる1LDKの安アパートは幽霊が出ると近所の小学生の間で噂になっているらしい。実際に住んでいてそれらしきものを目撃したことはないので眉唾物であることは確かなのだが、アパートの外観を見ればそんな噂がたつのも不思議はないな、と思う。田舎特有の無駄に広い土地を活かして建てられたアパートのため家賃の割に間取りは抜群なのだが、いかんせん築年数が古すぎるので入居者が集まらないのだ。そのうえ建物の塗装が剥がれていたり、建付けの悪い窓が少しの風でもガタピシと嫌な音を立てるのを見れば、幽霊屋敷だと思われても仕方がないというものだ。  そんなバイブスの下がる家に帰るのは、あまり心の踊るものではない。それが残業帰りだったり、センチな気分に呑みこまれる誕生日の夜だったりしたら尚更だ。  実際去年の私は、この日の夜をネットカフェで明かした。こんな大人げない大人になれたら良いのに、と思いながら「美味しんぼ」を一気読みしたのはいい思い出だ。どうしてあの漫画の登場人物はあれほど自信に満ち溢れているのだろうか。自分の姿と照らし合わせると、何を間違ってしまったのかと泣きそうになる。
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