3:虐殺スティンガー88

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★  ジルコン式のプロトタイプと呼ばれる兵器の正体がユーインだと知ったクロ、クォーツ、コバルトが言葉を失う中、その反応を見たシャルロウンは口を開く。 「なんじゃ、知り合いか」 「ええ。ですが()()の話ですよ」  そんなユーインの言葉からは改良種という存在を捨て、自らが兵器そのものになったという自覚が伺える。  金色の髪の隙間から覗かせる顔だけは人間の形を保っているものの、顎から下全てを覆う異質な表皮は人を捨てた証。  その瞳はかつて人間だった時の光が失われた様に、造り物の眼の如く無機質なものへと成り果てていた。 「ほう、まあよい。こやつはジルコン式最強の個体といっていい。ベースはイリジウムタートル。どうじゃ素晴らしいじゃろう」  その変異生物の名前にクロとクォーツは合点がいく。  九七式の砲撃を弾き返すほどの化け物の甲羅、その装甲能力を直接彼の皮膚に引き継いだとでも言いたいのだろう。 「自我を持つジルコン式が出来るとは不測の事態じゃったが……思考能力がある分兵器としての成長は早かった。生前に相当な()()があったんじゃろうな」  ユーインの隣で黒い扇子を開き自慢げに話すシャルロウンに対しクロは思わず声を荒げた。 「ふざけるな……ユーインまで手に掛けやがって……!!」 「クロ君、君は誤解しているよ」  だが気を荒げるクロの言葉を制するようにユーインは口を開く。 ――――……?? 「僕は自分から志願したんだ。自ら兵器になる道を選んだのさ」 「志願ってどういうことだよ……」 「僕はあの日、自分の無力を思い知ったんだ」  ユーインは小さく笑いながらも、その光を失った眼でクロを見据え話し始めた。  あの日、クロやクォーツ、コバルトと養殖場を共にした日。  猟団を率いていたユーインは自らが招いた過信により大切な仲間を失い、その遺体を埋葬する為にスピリアンを訪れたという。 「僕がこの世界を変える為には力そのものが必要だと痛感した。絶対的な武力が」  そこでシャルロウンが兵器を造り出している情報を耳にしたユーインは彼女に自ら志願してその身を捧げた。  ユーインの存在はシャルロウンにとっても好都合だった。  自ら変異種(イレギュラー)まがいになりたいという者などこの世界にいるはずがないと思っていたからだ。  だがユーインは養殖場でクォーツの存在、その兵器としての力を見た時に悟った。  このまま猟団を再生しても人間のままでは限界があるという事に。  何かを叶える為には圧倒的な力が全てだと。 「例えこの身が人としての形を失おうとも手に入れるべきだと思ったんだ。それもすべて世界を変えるという僕の信念を貫く為」  自らの拳を握りそう豪語するユーインは口元を吊り上げる。 「そう……僕らの夢をね。だからこの姿は全て自ら望んだ結果なんだよ」  それを見たクロの隣にいるコバルトは小さく首を横に振り納得のいっていない表情を浮かべたまま小声で口を開いた。 「だとしたら……おかしいじゃねぇか。この意味がわかるか、クロの兄ちゃんよ」  その言葉にユーインを見据えたまま『ああ』と頷くクロ、そしてユーインに対峙するクォーツの気持ちも同じだった。  彼が世界を変える為に希少種に協力するなんて事はあり得ないのだ。  そんな中、何も分かっていないシャルロウンはユーインの言葉に何度も同調するように頷く。 「このバンキッシュという国がいずれリンシェイムを下す夢……それを叶えたいという者は大勢いる。これは国民の悲願でもあるのじゃ……!!」 「あなたには感謝しています。このような素晴らしい力を与えてくれた事」 「クフフ……なに、よい。人の形を捨て力を得た貴様は勇敢な同志じゃ。さあ、その力を持って今こそクロキショウキチを討て……!!」 「…………。」  シャルロウンが右手をまっすぐにクロへ向け伸ばすがユーインは俯いたまま静止。 ――――……??  たがそんな静寂を断ち切るようにルビーは勢いよく距離を詰めていく。 「んな事させるかってんだ……!!」  そう叫びながらユーインに向け空中からの斬撃を見舞うが、ユーインは両手で斬馬刀の一撃を受け止めて見せた。 「……くっ……まあ落ち着いてくださいよ、赤髪のお嬢さん」 「こいつ……!!なんて馬鹿みてぇな硬さだよ……!!」  先ほどまでのジルコン式とは明らかに違う装甲とパワーにルビーはその場で切り返し再び距離を取る。   そして、もう一度踏み込もうとしたルビーだったが、 「待ちなさい。チビ」  クォーツは何か思うところがあったのか彼女の襟を後ろから掴み攻撃を中止させた。 「さすがはアルマニオ式ですね……骨の髄まで抉られるような一撃だ……」  攻撃を防いだユーインだったが、さすがはルビーの破壊力抜群の斬撃といったところか。  ユーインの足元は地面に音を立ててめり込み、かろうじて受け止める事が出来ただけの話だった。 「ただ、これでまた新しいデータは蓄積されましたよ……感謝します」   少ない戦闘経験でも兵器としての戦闘力が急激に上昇する事を自覚しているユーインが自らの手をグッと握りしめていると、 「御託はいい!!何をしておる!!さっさと始末しろ……!!」  そんな言葉を向けるシャルロウンに対しユーインは小さく笑いながら首を横に振る。 「何がおかしいのじゃ……!!」 「そしてあなたも……いや、お前が一番大きな勘違いをしている。シャルロウン・リリー」 ――――……!?  ユーインはあろうことかシャルロウンの首を片手で締めるように掴んで見せたのだ。 「これはどういう……つもりじゃ……」  混乱したまま自らの首に当てられた色素の違う手を解こうと必死に抵抗するシャルロウンに対し、 「わからないか?これが僕の目的だよ。お前は僕を利用したつもりかもしれないけど、僕がお前を利用しただけだ。この力を得る為にね」  ユーインは冷たい眼差しをシャルロウンに向け、殺さない程度に彼女のつま先が少しだけつく位置を保ったまま左手でその首を掴んでいる。  すぐに殺せる状況にも関わらず、まだ殺さないといわんばかりの光景だった。 「クケケ……やっぱりな。こいつはまた厄介な連中を巻き込んでいたのかもしれねぇな」  それを見たコバルトはもちろんクォーツ、クロもまた予想ができていたと言わんばかりの表情。  だがルビーとパドは理解できない中で、ユーインは真実を告げるかのように口を開く。 「武力を持つ所までは一緒だけど……最終的な僕とお前の夢は違う。お前が人類の為というように、僕は改良種の未来の為にこの世界を変えたいのさ」 「まさか……貴様……」  何かに勘づいたかのように目を丸くするシャルロウン。 「そう。僕はヒステリア教団の教徒……その実働部隊である戦士(ウォリアー)だ」  反希少種勢力として国家を揺るがす反抗組織、それがヒステリア教団。  それは希少種保護法の撤廃はもちろん、希少種自体を絶滅させることを目論む過激派組織であり、ルビーとパドも当然耳にした事のある名前。  クロとクォーツ、そしてコバルトは彼がその教徒である事を事前に知っていたからこそ少し納得いっていなかったが、 「そして……シャルロウン、僕はお前に復讐する為にここにいるんだよ」    この状況になった瞬間に全てが悪い方向に繋がっていた。
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