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ただ、パドがルビーの為に選んでいた服はどれもこう……個性的というか田舎者の俺にとっては見慣れないデザイン。
「ゴスロリっていうのかそれ。ルビーってそういうの着るのか?」
「いえ、着ないと思います」
じゃあ何で持ってきた。
まあ話を聞けばルビーはいつも軍服だったり軍から支給されたモノしか着ないようでオシャレというものに一切興味はないらしい。
「軍曹はいつも誰かの為に……そればっかりなので……くっ……」
まあその台詞は黒ニーソを握りしめて言うもんじゃないけどな
パド曰くルビーは無限の可能性を秘めたひとりの女の子で、女性としての生き方も見つけてほしいとの事。
なんだか保護者というか、彼なりに彼女の事を色々考えているのだろう。考えた方は多分間違っているが。
とりあえずパドが選んだ服は一度全て返却させ、当たり障りのないものを選びなおさせた。
「あとはランジェリーですかね」
「ランジェ……それってブラジャーとかパンリーとかだろ?そんな事頼むわけないだろ」
「え……でもここに」
2枚目のメモを見れば確かにそう書いてあるが、自分の洗濯物を俺に触られるだけでブチ切れるクォーツが果たしてそんな事を頼むだろうか。
「これ多分間違って渡しただけだと思うぞ?やめとこう。絶対に殺されるって」
「しかしながらもう後には引けません。任務も、そして私の興味も」
ついに興味という言葉を露呈したな。
「でもパド……お前わかるのか?クォーツやルビーの……その正確なサイズみたいな。ぱいぱいの」
その言葉に対しパドは『軍の情報は全てここに』と右のこめかみをツンツンとつつく。イカれてるがすでにあっちサイドの彼を止められそうにはない。
「仕方ない。まあ忘れて怒られるよりはマシか」
そうしてあろう事か下着をまで購入しレジにて会計を行ったわけだが、女性ものの下着って案外高いんだなって印象。
目の前で会計をしてくれている店員は、
「はい、で、では代金をお預かりいたします。少々お待ちください」
と言って店内の中心で満足げな表情を浮かべキョロキョロしているパドを警戒しながら購入したものを紙袋に詰めている。
通報されないか極めて心配だ。
「ありがとうございました。こちらレシートとお釣り、抽選券となります。宜しければ……」
「ああ、あ、はい。じゃあこれで!!」
とりあえず俺は急いでお釣りを袋に戻し、貰った紙類をポケットに突っ込んでド変態を連れてすぐさまその場を撤退したのだ。
そこから俺達はクォーツ達が待つ車両へ向かっていたんだが、
「ククク、クロさんすみません!!ちょっといいですか!!」
突然パドは散歩中に言う事を聞かなくなった犬の如く大きなCDショップの前にあるモニターの前で釘付けになる。
その画面の中ではどこかで聞いた事のある曲調で、歌って踊ってをしている3人組の女の子達がいたけで。
「ああ、これってパドやルビーが車の中で聞いていたやつか」
「ええ!!今を時めく有罪三姉妹ですよ!!」
目を輝かせ興奮するパド曰く彼女達は今バンキッシュで人気急上昇中の有罪三姉妹というスピリアン出身のアイドルグループらしい。
異端者アイン、狂言者ツヴァイ、独裁者トライの3人から構成される暗黒美少女ユニットで、パドはそんな彼女達の熱狂的なファンであり『戦争とは血を流す政治だよー』でお馴染みの独裁者トライ押しだという。
なにその『戦争×アイドル』みたいな設定は。
「うわぁ。一度でいいから彼女達のライブに行ってみたいものです。軍曹も有罪三姉妹が好きなんですよ」
「いや2人で行っておいでよ。休みはあげるから全然」
だがそんな言葉にパドは悲しそうな顔で首を横に振る。
「いえ、彼女達の活動はシークレットライブ限定なんです。プロフィールも謎に包まれ簡単には生で見られずライブ映像だけ……だがそこがいい!!ギルティー!!」
なんて拳を握りしめこちらに向かって力説するパドの背後の画面では、地下のような閉塞感のある会場で少女たちが舞い踊っている。
『有罪!有罪!有罪!有罪!でもでもーやっぱりー!うぅー有罪ィッ!!』
「やっぱ有罪なのかよ」
「これは『無期懲役執行猶予待った無し』という曲です」
なんて絶望的な曲だ。
デスメタルのような重低音のサウンドの中、少女たちは拳を突き上げ客を煽りながらヘッドバンキングをかましたり、天井にマシンガンや火炎放射器をぶっ放したりしている。
それによって天井からパラパラと落ちるコンクリートの粉末を浴びる客のボルテージは最高潮。
なんか可愛い顔してとんでもなく過激そうなグループ、そして熱狂的なファン。
まあ俺の時代でもそういうアイドルグループ的なのは流行っていたが、戦争をコンセプトにいれた途端に批判殺到がオチだろう。
ルビーやパドがハマっているように、彼女達を否定するつもりなんて全然ない。
どちらかと言えばこういう文化が国を元気づけているんだろうと思うと、応援したくなる気持ちはとても分かる。
「有罪三姉妹ねぇ……」
とまあそんなくだりもあったが、クォーツ達をこれ以上待たせるわけにもいかないので、俺は画面に張り付いていたパドを引き剥がし彼女達の待つ車両へ戻るのだった。
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