1:乱ジェリー of the デッド

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 まあそんなこんなで待っていたクォーツ達に戦利品を渡し、俺とパドは荷台の外で待つ事に。  そしてクォーツが車内でガサゴソと紙袋を漁り『アンタ達ねぇ……!!』と案の定ランジェリーを独断で買って来た事に対するお叱りを頂いたのだが。  どうやら彼女が気に入らないのはそこじゃなったらしい。 「なんで私がBなのよッ!!私はシーよ!!C!!ほら見てみなさい!!」  そう勢いよく自分の胸を張っているが……  嗚呼……それはなんとも悲しきかな。 「ちょっとどこ見てんのよ!!」 「どっちだよ……」  忙しい奴だな。 「私はCなの!!取り替えてきなさいよ!!」   胸元を隠すように押さえ、子供が嘘をつく時のように目を真ん丸にして鼻息を荒くしている始末。  パドの方を見れば首を小さく横に振り『私のデータに間違いはありません』という自信に満ち溢れた顔でひとつ頷いている。  自身の持ち方を大幅に間違えているパドだが、クォーツは胸のサイズをサバ読もうとでもしてるのか。 「クォーツさん、よく聞いてください」  そんな私設兵団の交渉人(ネゴシエーター)ことパドが『サイズの合わないブラジャーを着用した際に起こりうる危険性』に関して5項目ほど説明したところで彼女は諦めがついたのか。 「ま、まあ今はこれで我慢するわ。Cだからキツいけどね。ぎっちぎちよ」  とか言って勢いよく再び荷台の中に戻ろうとした時にルビーは『アタシはDだぞ!!』と豪語していたが全員が無視した。  ここは無視を決め込む他ない事はその場にいた全員が分かっていた。 ――――……そこから数分後。 「よッ!!」  荷台からストンと降りてきたクォーツは白いワンピースを見事に着こなし灼熱に舞い降りた天使というか出所したての犯罪者というか、とにかく新鮮だった。 「お勤めご苦労様です」 「誰が死刑囚みたいな顔よ!!」  ちょっとは自覚あるのかよ。 「あながち間違いじゃないだろ。とはいえ似合うじゃないかクォーツ」 「まあ私くらいになれば当然の結果よ!アンタにしては悪くないセンスね」  そんな憎まれ口を叩くクォーツだが実際なんでも着こなしてしまう彼女がいる一方で、 「アタシはこのままでいいよ別にめんどくさいし」  ルビーらしい感じで着替える事なく終わりパドが肩を落としている中、 「私とクロは食材や生活物資、ルビー達は弾薬とか野営に必要な物をお願い。ここにリストがあるから。無駄遣いしちゃダメよ」  クォーツはそんな2人に向かいメモ紙と資金を手渡す。 「それとルビー、357マグナム弾も買ってきて貰える?」 「なんでだよ。アタシ達の中で誰も使ってねーだろ」  その要望にルビーは何処か不思議そうな表情を浮かべていたが『いいからお願いね』とクォーツに言われて丸め込まれていた。  そうして今回の内政調査に必要な物資を購入する為、ルビー達とは分かれて買い物をする事に。  というのも俺達の兵団は資金源がない貧乏兵団。  その為、今後の金策として都市周辺の無明地(ノーネーム)にある猟師館(ハンターズ)で仕事を引き受けながら活動をする事になるとクォーツから提案を受けていた。  宿泊施設なども使わず野営をしながらまずはこの1週間、猟師として働きながら過ごさなければならないのだろう。  内政調査の件も含め猟師(ハンター)生活の中にその都市の情報が溢れているのとクォーツは言っていた。  ちなみに初期費用に関してはクォーツが全てを立て替えてくれている。俺達に課された借金みたいなものだ。  一番借りちゃいけない所から借りた気がするが仕方がない。むしろ感謝すべきだろう。  俺はそんな事を考えながら悠々と街中を歩く彼女の後ろをついていく。  商業街の中心には蒸気時計や噴水、大道芸人のパフォーマンスに湧いている人達。  クォーツはそのひとつひとつに足を止め青い瞳を輝かせているようにも見て取れる。  観光地と言われるだけあって、まるで幻想的なテーマパークに来ているかのような雰囲気。  白いワンピースを着て、青いポーチを肩から掛けるクォーツ。今は髪を結んでいない事もあり、腰元まである長い髪を颯爽と揺らしている。 「クロ、あれは何かしら?」  そんな初めて見る街中を興味津々の表情で眺めながら、楽し気に白い脚を先へと運ぶ彼女に振り向く男も多い。  こっちが彼女と横並びに歩く事に抵抗を感じてしまい右後ろをキープせざるを得ないほど。 「なんでずっと後ろにいるのよ。早く歩きなさいよ」 「お前が歩くのが早いんだよ。でもペースは落とさなくていい。ゴーだ」 「何言ってんのよ。変なやつね」  そんな軽口を叩こうともその姿はさっきまでBだのCだの揉めていたワガママ娘ではなく、どこか育ちの良いお嬢さんのように見える。 世界を一歩ずつ知っていく彼女の姿。 なんだが嬉しいのだが、胸を打たれてしまうような感覚。  兵器である事など忘れてしまう程に外面は本当に人間と変わらないのだ。  そんな散策をしながらも買い物は順調に進んで行った訳で。 「なあ……クォーツ……重いんだけど」 「男なら荷物を持つのが当然って雑誌に書いてあったわ」 「その雑誌の記者呼んで来いっての」  あれやこれやと絶対いらないものまで購入しているのは気付いていたが、彼女なりに楽しんでいる証拠なのだろう。  その後『クロ、アレを食べてみたいわ』『クロ、これ飲んでみたいわ』とやりたい放題だったが、今日に関しては目を瞑ろうと思い何も言わず我慢をし続けたのだ。  彼女が楽しい、そう思ってくれる事の積み重ねがこの世界を好きになってくれる第一歩なのだと。  そうして一通り食材含め買い物を終わらせ車に戻ると、すでにルビー達が到着していた。  ルビーの表情を見れば彼女もまた楽しかったのだろう。きっとパドが楽しめるスポットを案内してくれたに違いない。  もう日が暮れそうになっている中で、これから野営場所に向かう為にクォーツとルビー、そしてパドは買って来た荷物を車両の天井部へ括りつけている。  さすが元軍人三人衆。手際がいい。  残された俺は手持無沙汰になると同時に抑えきれない尿意。  これはさっきクォーツに飲まされた甘ったるいドリンクが原因だろう。  「なあクォーツ、ちょっとトイレ行ってきていいか?さっき来た道に公衆便所があったんだけど」  クォーツは白いワンピースを着ながら大股でロープを引っ張りいつも通り男勝りの姿に戻っていた。   「こっちは3人とも今手が離せないから……いいわ。ただし……!!」 ――――……?? 「()()にトラブルに巻き込まれないように気を着けなさいよ」  謎に釘を刺されたところで俺は『まかせとけ』と二つ返事でその場を離れ公衆便所に向かう事にした。
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