1:乱ジェリー of the デッド

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 そしてルビーは自分の胸に手を当てて語り始めた。 ――――……。  『対 変異種(イレギュラー)戦闘型改良種(バトルリメイク) アルマニオ式』  それはコーネルが言っていたように変異種を殺す為だけに造られた生物兵器。  ただ、アルマニオ式は自我を持つ、十人十色の生物兵器でそれぞれ性格も考え方も全く違う性質を持っていたという。  それは彼女達を見ていれば自然と分かる事だった。  中にはクォーツのように人間に憧れる者、自分にコンプレックスを持つ者、アルマニオ式同士恋をする者までいたそうだ。  更には人間に対し心の奥底で憎しみを覚えた者、その圧倒的な力に取りつかれてしまった者。 「この性格や感情ってのは男と女で大きな差があってさ……」  男性脳と女性脳。ルビーはそんな言葉を使って説明してくれた。  これは俺達人間にも共通して言えることだ。  博士は『ヒト』の形を残す為に自分の血液によるBR現象を利用してアルマニオ式を作ったわけだが、ここで男性脳と女性脳から来る精神的な性質という問題に突き当たる。  過去の実験から男性型の戦闘型改良種にはヒトの形を残した為に『男性脳』が原因と考えられる反逆行為が頻繁に起こったそうだ。    その男性脳の性質は『野心』『独断』『先導者気質』といった、管理する人間側にとっては極めて大きな危険因子。  だからこそアルマニオ式には献身的な気質、人間として完全体といわれる女性のモデルが多かったのだとか。  ただ、確率の問題で女性なのに男性脳を持ってしまった者もいるとルビーは言っていた。  30体のうち25体は女性型。  女性脳と呼ばれるその性質は、本来自分の子供を『守る』と言った行動や『協調性』というものに長けている。  希少種を守るという目的に対し結束して戦う事に適しているという事。  そして、分かりやすい特徴としてその身体には血液がほとんど無い上に…… 「悲しいって感情表現を断ち切られているんだ。これはアルマニオ式すべてに共通する」  確かにクォーツとルビーが戦った際、彼女が攻撃を受けたその傷口にはほとんど血はなかった。 「悲しい……とは思うのか?」 「それは思うが、涙が出ない。どんなに頑張ってもな。戦場に出る上で必要のない感情表現だからだ」  女性脳のアルマニオ式、その欠点である『感情的になりやすい』という性質を克服する為、男性型含め全員が断ち切られていると。  つまり感情的になりやすい彼女達が起こす『悲しみの連鎖』を防ぐ為に取り除かれたのだという。  負の感情共感性の排除というもので、彼女達に血が少ないのも同じ理由。  傷ついた仲間に対する同情や、そこから来る反感を持つ事に一切の共感をさせない為。  幼い頃から泣くことを許されない……戦場において不利になる感情を仲間同士で共有できないようにする為だったと。 「血も涙もない……とはよく言ったもんだよな。冷徹な殺戮兵器である事に間違いはない」  ルビーは『そのお陰で何度も助けられた事がある』そう言ってどこか諦めていた。  確かに兵器としてはその感情表現が必要ない、そう言ってしまえばそこまでかもしれないが。  ただ、本当に兵器として作りたかったのであれば、人形のように全ての感情や性格さえ取り除いてしまえば良かったはず。  それでもしなかった理由…… 「アルマニオ博士の事は良く知らないけど……涙を流す事ができなかったとしても『感情そのもの』を残した意味が俺にはなんとなくわかる気がするんだよな」  その言葉にルビーは不思議そうな顔をしている。その顔だ。その表情を残した意味ってのは必ずある。  そこまでの技術があるなら、全てを取り除いた方が兵器としては有用だろう。  なんでもいう事を聞くロボットにした方がいいっていうか。  それでも感情を残した理由は、これもルビーやクォーツと一緒にいたら自然と分かる事。 「アルマニオ博士は兵器としてじゃなく少しでも人間らしく生きて欲しい、そう思ったから感情を残したんじゃないのかな」  馬鹿みたいに笑って、阿保みたいに喜んで。時には怒り過ぎちゃうところもあるけど。  涙は出なくても悲しむ事だってできる。泣いてほしくない、前を向いてほしい。強く生きて欲しい。  アルマニオ博士の本音は生物兵器なんて本当は生み出したくなかったはず。  コーネルの話を聞いていれば、それはなんとなく分かった。  ただ、時代や国に技術を迫られ、生物兵器を生み出さざるを得ない葛藤の中で、せめともとそんな意味が込められてるんじゃないかと思ったのだ。  だからこそヒトの姿を残し、感情を持たせ、人間に少しでも近づけるように自分の血を分け与えたんじゃないかと。 「……なんでそんな事わかるんだよ」 「まあ……俺も博士と同じ希少種だからな。人間としての勘だよ」  そんな台詞にルビーは今までの少し暗い話から抜け出すように小さく笑う。 「ククク……お前は博士の生まれ変わりか何かか?」 「ばか。俺は過去から来たんだよ」  そして笑いの息を整えるように一度落ち着かせ口を開く。 「でもまあその話……いつかクォーツにも聞かせてやってくれ。きっと楽になるはずだ」  クォーツが楽になる。その言葉で思い出したが、ルビーはいつの日か俺を彼女と一緒に生活する事に関して『リハビリ』なんて言葉を使っていた。  そこから推測できる事。 「博士が亡くなった理由と……クォーツ、何か関係があるのか?」  その俺の問いにルビーは深く、ひとつだけ頷いてみせる。 「……殺しちまったんだよ」 ――――……。 「え……殺したって」  「……クォーツが博士を殺した」  蛍がルビーの口元を照らし、その言葉はその空間を静寂へと包み込む。 「クォーツはそうやって言うんだけどな……自分の()()で殺してしまったって。だが本当の所はアイツにしかわからねぇんだ。あの日……あの場所で何があったのか」  ルビーは納得のいかない表情を浮かべながら2年前の戦争について話し始めた。
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