1:乱ジェリー of the デッド

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 2年前の生存戦争。敵地のリンシェイム・マーガでの出来事。  アルマニオ式には性格による個性があるように、それぞれの戦い方にも違いがあるという。  殲滅型、万能型、奇襲型、暗殺型、陽動型と言ったように30種類もの戦局に特化したアルマニオ式がいた。  製造段階から訓練まで別々に行われ、少数精鋭でも様々な任務に対応できるようにする為だったのだ。  クォーツやルビーの戦い方が違ったように、クォーツは狙撃型、ルビーは汎用(はんよう)型に分類される。  そうして様々な戦局を有利に進めたアルマニオ式は敵国の首都の一部を制圧することに成功。  そんな中、彼女達88小隊は敵国の大統領が山岳地帯に避難したとの情報を得る。  そしてその日はルビー含む他の88小隊は任務の障害となる敵兵の掃討を任せられていた。  そして狙撃型のクォーツを中心に大統領が潜伏している施設に潜入し作戦を決行。アルマニオ博士も彼女に同行した。  作戦は順調に進み標的を追い込む事に成功したと思われたが、掃討任務に当たっていた88小隊にはアルマニオ博士から『作戦失敗』の報告が入る。  それと同時に正規軍からはバンキッシュ敗北の知らせが届く。 そう、バンキッシュはその瞬間に生存戦争に敗北してしまったのだ。 それはもう88小隊にとって戦う必要がない事を意味していた。 その日は雨。 蒸し返すような温いの雨の中で事件は起こった。  アルマニオ博士から撤退の指示を受けた一同は、バンキッシュに帰還する為、山岳地帯にて2機の大型軍用ヘリに乗り込んだのだが。  その時、ルビーはクォーツとアルマニオ博士だけがいない事に気付いた。 ――――……そして、 「アイツは……博士の右腕だけを持って……ただ、こちらに向かってゆっくりと歩いてきたんだ」  背後から暗殺に気付いた敵国の追撃を受け、銃弾の雨が降り注ぐ戦場の真ん中。  クォーツは急ぐ事もなく亡き博士の右腕だけを片手にぶら下げて闊歩して来たのだと。  全てを失った表情、光を失った瞳。血と雨、泥で汚れた顔や服。  その光景に誰もが博士の死を悟る。  博士の死、というのはアルマニオ式にとっては唯一の親が死んだのと同然。誰よりも慕われていた希少種の死。  その光景を見た他のアルマニオ式達は次々とヘリを飛び出し、我を失った生物兵器たちは本能のままに追撃してきた敵兵と交戦。  だが数では敵の方が圧倒的。追撃に来た敵兵の数は数万を超えていた。  迫りくる津波のような敵軍、ヘリから向かっていく狂気に染まった仲間達。  その全てとすれ違う彼女は何ひとつ目に入っていないかのように虚ろな瞳を浮かべたまま戦場の真ん中で止まり空を見上げた。 ――――……光のない空を。  まるで涙を表現するかのように、雨粒は無と化した彼女の頬を伝っていた。  それを見たルビーは咄嗟に近くにいたアルマニオ式と共に彼女を抱え、その場を離脱する事を判断。  このままでは全滅は免れない、そう思ったのだ。  ルビーが持っていた無線機には自我を失った仲間たちの怒号、断末魔、泣き叫ぶ声がしばらく鳴り響いていたという。  その後、山岳地帯を抜け敵から小型船を強奪したルビー達はバンキッシュに自力で帰る事を決断。  その船上でルビーが『何があったのか』を問いただした所…… 『私が失敗して殺したの』  今まで無表情を貫いていたクォーツはそこにきて震え『頑張ったんだけどね』と顔を俯けながらずっと右腕を抱きしめていた。  だが、その言葉にルビーともう一人のアルマニオ式は納得がいかなかった。  彼女に限ってそんな事は絶対にない、そう言い切れるほどだったが、クォーツは自分が殺したとの一点張り。    ルビー曰く、彼女は誰よりも博士から気に掛けられ、そして博士の事を慕っていた。  何よりも任務中の事故ではなく、撤退命令の時点で博士は生きていた。 それは恐らく『撤退中の事故』だったのではないかと。  そしてアルマニオ式の仲間に取り付けられていた生体反応装置は徐々に切れていき戦死者が次々と出ていった。  恐らく途中で外した者もいたが88小隊は敵地にて事実上全滅。 戦死者と行方不明者を出した無残な結果となったのだ。  そしてルビーともう一人のアルマニオ式はなんとかバンキッシュへの帰還を果たす。  その際『博士は事故で戦死した』と報告を入れたのだ。  それでもクォーツは『私が殺した』と言い張ったが、ギルフ将軍の意思の尊重や無線の音声データも残っていた事でクォーツの処分は免れた。  だが、ルビー達3人は脅威としてハーデラ、ナバールに押し付けられる事になる。  そして噂だけが独り歩きし、クォーツに至っては『希少種殺し』として認識され疎外されてしまう。  アルマニオ式がバンキッシュ国民に恐怖の象徴となったはそれからの事。  歴史上の貢献者であるルビーがいる一方で、脅威の象徴としてクォーツがいる。  クォーツは軍を自ら除隊、博士の墓の近くにあったあの風車小屋を選び、ひとりで暮らすようになった。 「それからクォーツは希少種に対してトラウマを抱えて……ギルフ将軍にでさえ拒絶反応をみせてたんだ」 「……クォーツがそんな風になっていたなんて知らなかった」  俺の発言が何度彼女を傷つけてしまったのかと思うと……悔しかった。自分に腹が立つほどに。 「あの時のアイツは全て塞ぎ込んで……酷かったんだよ。ロクに話もしなかった。この世界から離れてしまうように」  クォーツが友達がいない理由、ずっとひとりでいる理由がやっと分かった。  だから一番初めに会った時『誰も救わない』『助けない』なんて言葉を使った。  あれは俺を見捨てたんじゃなくて……博士を助けられなかった自分、そんな過去の経験から全てを拒絶してしまっていたという事だったんだろう。
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