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「そこから2年……クォーツは少しずつ話すようになって、怒ったりするようになって……」
するとさっきまで暗い表情で話してたルビーは表情を変え、
「そんな時、お前が現れてくれたんだよ。クロ」
そう月を見上げ僅かに微笑みこちらに視線を向ける。
「お前が現れてくれたからクォーツは変わった。アイツの止まってた世界、時間を動かしたのはクロ、お前なんだ。昔見てた夢まで引っ張り出してきてさ」
『現れてくれた』なんて言われても俺は何もしちゃいない。引き合わせてくれたのはルビーだ。
「それにあの件は俺が現れた影響だったんだよな……悪いと思ってるよ」
だがそんな言葉にルビーは『いいや』と言って首を横に振る。
「アタシはクォーツが立ち直ってくれて嬉しかったんだ。ただ、アイツはまだ不安定で。そんな状態のまま何処か遠くに行っちゃうんじゃないかって……」
「……心配だったんだな」
立ち直ってすぐの彼女に対し、ルビーは友人として心配だったからこそ全力で止めたんだろう。
俺が現れようが現れまいが、彼女の命はルビーが救ったようなものなんだから。
「だからさ、アイツの夢にもう少しだけ付き合ってやって欲しい」
――――……??
「クロと同じ景色を見たいんだよ、アイツは。ひとりの人間としての景色を」
ルビーは彼女の事が心配だったから、あの時必死で止めたんだ。
「そしてあのバカ女が抱える夢……それがアタシの夢でもあるからさ」
「わかった。約束するよ」
その問いにひとつ頷いたルビーは間違いなくクォーツの事を誰よりも思っているのだろう。
クォーツ……いい友達がいるじゃないか。いや家族というべきか。
「アルマニオ博士の件に関してはクォーツから聞くまでは知らないフリをして待っててやってくれ。いつかお前になら真実を話してくれるかもしれない」
あの時、あの場所で何があったのか。
別に辛い過去であれば話さなくてもいいのだが、もし彼女が聞いてほしいと望んだのなら、その時はちゃんと聞いてあげようと思った。
「まあ俺に話してくれるとは到底思えないけど……気長に待ってみるよ」
そんな台詞にルビーは『確かにな』とクスクスと笑ってくれた。
「そして最後にもうひとつ。お前がクォーツやアタシを扱う上で、アルマニオ式、最大の武器を教えてやる」
――――……??
するとルビーはひょいと立ち上がり、川辺に近づいていく。
「クロ、本能って言葉知ってるか?」
「まあ知ってるけど……本来持ってる性質みたいなもんだろ?」
そしてそのまま川の水を手のひらですくって見せる。
「……これを見て喉が乾いてる、そう思ったか?」
「まあ、山道を歩いてきたからな。思ったよ」
「それが生理現象、つまり本能に近い。簡単に言えばアタシ達は『形ある者を殺めたい』って本能が埋め込まれてる」
戦闘型改良種と言われるくらいだ。そういう感じなんじゃないか、とは思ってたが……
「……でも、そんな日常的に思ってるわけじゃないだろ?」
「ああ。お前が今この水を見るまで喉の渇きを忘れていたように、その本能は普段、アタシ達の体の奥底に眠っている」
「なるほどね。俺は水を見た事で思い出した……つまりスイッチがあると」
「それはアタシ達にとっても同じ。限界を迎えた時、本能が剥き出しになっちまう事を『覚醒』っていって、我慢できる割合を『抑制率』っていうんだ」
そう言ってルビーは『覚醒』と『抑制率』の関係性について説明してくれた。
まず戦闘本能が『覚醒』した場合、単純に個々の戦闘能力が上がる。
本来、覚醒せずとも十分に戦えるがその基本値はアルマニオ式よって違う。
分類としてルビーが汎用、クォーツが狙撃といったように得意不得意があるように、基本的な戦闘能力は戦局よって変動する。
どんな戦い方をするか、どんな相手と戦うか、つまり相性の事だ。
覚醒しない段階で50の者もいれば80の者もいて、戦場が変われば互いの能力が逆転するといったように当然の事だという。
そして次に『覚醒』のスイッチが入るタイミングには個人差があるという事。
クォーツは俺がトイレを詰まらせた日、ルビーに銃口を当てられただけでいわゆる『覚醒』をした。
それに対しルビーは、クォーツと地下水路で戦った際に、ナイフで自分の脚を刺した事で『覚醒』をした。
それはクォーツの抑制率が低く、ルビーの抑制率は高い事を意味し、それをパーセンテージで表現するらしい。
『抑制率』が低ければ覚醒しやすいが自我を保ちづらく、高ければ『覚醒』しづらいが自我を保てやすい。
だが、抑制率の低い者が深い覚醒に陥ると、戦闘能力の飛躍的な向上と引き換えに自我を引き戻せないほどに暴走してしまう危険性があると教えてくれた。
アルマニオ式にとって『覚醒』はひとつの武器であるが、使い方を間違えれば自分を失ってしまう諸刃の剣という事だ。
兵器として覚醒するのか、人として抑制するのか。
そしてアルマニオ式が所属する88小隊では、覚醒を含めた戦闘能力と抑制率に対し、数字によって順位がつけられていたらしい。
「そんなアタシ達をお前は抱え込んだんだ。もう後戻りはできねーかんな」
「大丈夫だって。で、ルビーは抑制率だっけ、30人いるうちの何位だったんだ?」
「アタシの抑制率は現役の時で89パーセント、3番目に良かったが、戦闘能力に関しては下から数えた方が早かったかな」
「ルビーで下から数えた方が早いってどんだけだよ……」
「そんな化け物みたいな連中だったんだよ」
まあそんな意地悪な表情を浮かべる彼女の抑制率が高いことには安心したんだが、俺はどうしても気になった事があり、ルビーに恐る恐る聞いてみる事に。
「で、ちなみにクォーツの抑制率は……」
「下から2番目に悪かった」
ですよねー。
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