1:乱ジェリー of the デッド

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――――……??  だからルビーとパドは黙っていたのか。  そう思っているとクォーツが自ら博士の名前を出した事に安心したのか、ルビーは見計らったように口を開いた。 「博士も同じように本能を持っていたんだ。彼が持っていたその本能ってのは……」 ――――……?? 「……殺戮本能(・・・・)。アルマニオ式の原点であり起源、そんな本能なんだよ」  ルビー曰く、博士は『殺戮』という言葉からは程遠いような優しい人柄だったが、第一次生存戦争で自分の異常な感覚に気付き、そして自らの本能に対して研究を進めていたそうだ。  その人柄とは全く無関係な彼の本能は、戦争という極限状態に置かれた事で覚醒した。  そしてそれが殺戮兵器を造る上で最も重要な要素であり、その結果が今俺の前にいるアルマニオ式。  彼が持っていた殺戮本能こそが、彼女達を生物兵器史上においての最高傑作と呼ばせた所以であると。 「待ってくれ……じゃあ、俺にも殺戮本能ってのがあるっていうのか?」  その問いにクォーツは首を横に振る。 「博士に『殺意を感じる』なんて能力は無かった。アンタの血に眠っているのは殺戮本能とは『別の何か』なのかもしれないわね」  恐らく博士に一番可愛がられていた彼女がいうんだから間違いないだろう。 「確かに何の訓練も受けてないお前が、今みたいに崩れた死体を見ても嫌な顔ひとつした事ねーもんな。変だとは思ってたが……でもまあ悪い事じゃねーだろ?」  そう言ってルビーは小さく笑い肩をすくめる中、クォーツは忠告するように強めの口調で俺を見据えた。 「ただ仮にクロの血になんらかの本能があって、改良種に対するBR適正まで持っていたとなれば……アンタの血からはとんでもない化け物が生まれる可能性がある」 「それって……」 「アルマニオ式に匹敵する人型の生物兵器を造り出せるかもしれないって事よ」  マキナもいつの日か言っていた。    BR適性があればその血は争いを生み出すと。  その意味は改良種をベースとした優秀な生物兵器を造り出せるから、という事だろう。  そんな中、博士が『殺戮本能』でアルマニオ式を造り出したように、俺の血に眠っている『謎の本能』もまた彼女達のような生物兵器を造り出せるかもしれない。  そういう事なんだろうか……。 「そこまでクロを脅かすなよクォーツ。それにマキナの研究の結果を待たなきゃ分からない事じゃねぇか。要はクロが血を流さなけりゃいいって事だろ?アタシがいるから大丈夫だって」  ルビーはそう言って俺の背中をバンバンと叩く。  背骨が悲鳴をあげているが……そのお陰で少し楽になったのも事実。 「ああ。マキナの研究結果を待つことにするよ、ありがとう、ルビー」  そんな俺の表情に3人は少し安心した表情を見せたが、クォーツは再び何かを察したかのように話し始める。 「クロに本能が存在するかどうかって話は私達しか知りえない。だったら今回の襲撃が本当にクロを狙っていたのだとしたら、別の理由があるって事かしら」  彼女のいう通り、俺は自分の本能に対して今初めて話をしたんだ。  ここにいるメンバーしか知らない。たとえマキナでもまだ検査結果を出せていないのだ。  するとルビーは煙草に火を着けると転がる死体に目を向ける。 「だったらまずはコイツ等の正体だ。クロを狙っていた以上放ってはおけない。それにスピリアンでの大量誘拐事件とこの新種の生物兵器。どちらも改良種が関係してる。少しきな臭せーな」 「コーネル氏の尊厳が失われつつある今、様々な勢力の士気は上がり活性化しているのも事実ですからね。それに乗じて希少種に手を出すなんて真似は到底許されません。たとえどんな身分だったとしても」  そんなルビーとパドはこの事件に少なくとも絡んでいる人物に心当たりがあるような話しぶりだった。  そしてクォーツは何かを決意したように俺の方へ目を向ける。    「まあこんな真似できる奴はひとりしかいないわ。クロならもう気付いているでしょ」  生物兵器を造り出せるだけの知力と資金力。 「ああ。スピリアンの都市長、シャルロウン・リリーだな」 「アンタってホントに都市長を相手にするのが好きね……とりあえず明日は情報収集に行きましょう。私に考えがあるわ」 「好きで相手にしてるんじゃねぇよ……」  うちの参謀はどんな混乱状況でもたくましいというか、その姿は本当に頼りになるんだよな。 「それにクロは私のモノなの。横取りしようだなんて……良い度胸じゃない」 「俺をモノ扱いするな。クォーツだって相手にする気満々じゃないか」  そしていつも通り腕組をしながら喧嘩を売られたヤンキーのように意気込むクォーツ。 「盗むのは好きだけど盗まれるのは嫌いなのよ」 「お前は山賊か」  そうして謎の死体はパドが山奥に埋め、その日はルビーとクォーツが交代制で見張りを行う事で一晩を過ごすことになったのだが。  そんな俺は荷台に敷いた寝袋の中で、自分の手のひらを見つめる。  『俺の血に眠っているであろう本能』  それに関してはマキナの検査結果を待つほかない。  ただ『改良種の大量誘拐事件』と俺を誘拐しようとした『謎の生物兵器』の関係性。  被害者のナバール2名はよく分からないが、ハーデラの軍人2名を襲える力があると考えれば、あの蟲男なら可能かもしれない。  こちらの都市に被害が出ている以上、ハーデラの私設兵団として動かなければならないだろう。  だが相手は恐らく都市長。  一筋縄ではいかないのは分かっているが、まずはクォーツの言う通り情報収集が先だ。  わずか内政調査1日目にして見事にトラブルに巻き込まれてしまい、俺はそんな不安を抱えながらも浅い眠りについたのだ。
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