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――――……突然だが、
男ふたりで仲良く女性服専門のブティック、そのショーウィンドウに張り付いたまま中の様子を覗き込む、なんて日が来るとは思わなかった。
「畜生……なんで俺がこんな事……」
旅の初っ端からこんな羞恥プレイに晒されるなんて幸先が悪すぎる。
が、この任務を遂行しなければ俺の今後の立ち位置が大幅に変わってくるから仕方がない。
まあどうしてこんな事になったかと言えば、それは時を少し遡る事になる。
――――……。
無事に正式な帝国の希少種となった俺は、軍事都市ハーデラに私設兵団を結成したわけで。
正規軍のようにハーデラに常駐する兵士ではなく、軍事都市で有事が起こった際にすぐに駆け付ける予備軍、簡単に言えば傭兵的な立ち位置と言った方がいいだろう。
俺の身辺保護を軍事都市にバックアップしてもらう代わりに、軍事都市の要請を受ける何でも屋みたいなもの。
とにかく軍隊と警察と消防と病院をくっつけたようなマルチ正規軍の手助けをするってわけだ。
ちなみに今のところまだ一度も要請はない。
そんな中、ギルフ将軍との約束もあって軍務の間を縫い、この国の現状を探るべく各地を巡る事になった。
一種の社会勉強というか、倫理を兼ね備えていない彼女達はもちろん、この時代の人間じゃない俺にとってもそれは有益な事。
同時に、あの事件で均衡状態にある四大都市の状況を把握しておきたい正規軍は、何かあっても各都市長に顔の利く俺が適任として許可が下りたらしい。
要は軍事都市の調査員、国の内情を定例会議で報告する水戸黄門的的存在。
『この血が目に入らぬか!!』といって『ははぁー』みたいな事をしろってわけじゃない。
どちらかと言わなくても血を流しちゃいけない方だ。無理に正さずとも情報を持ち帰ればいいのだ。
とはいえ、うちの助さん格さんは多少人間離れをしてしまっているが、そんな一騎当千の護衛がふたりもいれば正規軍が軍勢を引き連れて嗅ぎまわるよりも効率的だろう。
多くの人を動かせばお金が掛かるのだ。それ以前に色々鋭いギルフ将軍のはからい、と受け取っておいていいだろう。
ハーデラの定例会議は月一度の会議に参加して、今のハーデラの情勢、課題、施策、など様々な議題についての報告会議のようなもの。
軍の上層部、つまり少尉以上が百人以上あつまる大会議。もちろんゲイリーもいる。
つい先日、その定例会議に初参加したド素人の俺にとってよくわらない事ばかりだったが、この件については今後勉強していけたらと思う。
ただ希少種である俺に割り当てられる国からの特別予算の話だけはよくわかった。
年間で言えば宝くじなんて比にならない金額だったわけで。一生掛かっても使いきれない金額だったのだ。
色々考えた結果、俺はその場で一切の受領を断った。
さすがに会議室に戦慄が走ったわけで。給与として最低限の提案もあったがすべて断ったのだ。
ボランティアみたなもんだからそりゃあ驚くのは当然だが、俺が私設兵団を結成したのはクォーツやルビーを救う事だし、内政調査という名目で自由にして貰えるってだけで、全ての願いは叶っている。
別に優雅に暮らしたいわけじゃない。誰かさんが言っていたように『働かざる者食うべからず』の精神だ。
俺はまだこの国の為に何も働いちゃいない。
その代わり、希少種保護に充てられる全ての予算をハーデラのスラム街の復興に充てる事を希望したのだ。
水道、ガス、電気の整備、私設住宅の建設、それに伴う雇用の50パーセントをスラム街から行う事。
それを希少種による意思の尊重として絶対的な約束させた。
まあその途端に、会議室からは拍手喝采で俺の決断はそこそこ正しかったのだろうと思う。
とはいえ、翌日に内政調査という名の旅路に向かう予定だった事もあり、車両の手配だけはお願いした。というわけだ。
そうして、清々しい気持ちで風車小屋に帰るとキッチンから『あ、どうだったー?』とクォーツに聞かれ、その日あった事を全て話したんだが、
「ねぇ……今なんて……言ったの」
ちょうど包丁じゃなくサバイバルナイフを持っていた彼女は右頬をひどく痙攣させ『あ、これやったな』と瞬時に悟った俺は人生で2番目にひどい仕打ちを受け、人生で5番目に苦しい夜を迎えた。
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