2:有罪神殿サバイバー

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 猟師館のテーブルを組み合わせて大きな一つの会議台を囲む私設兵団の面々とコバルト一味。 「出ました。これがエリア3、神殿の見取り図です」  相変わらずなんでも出るな。  暗い室内の壁をプロジェクター替わりにパドの高性能パソコンから画像が映し出され、そこには『神殿』という名の離島と数字の羅列。  俺の時代で言えば三河湾に浮かぶ日間賀島(ひまかじま)という離島で、四方が海に囲まれる中、湾の橋から大きな1本の橋で結ばれている事が伺える。  橋は全長2キロってトコだろう。 「思ったよりも広くないわね」  クォーツの言う通り、広さは約0.9平方キロメートル。  いびつな海岸は全て埋め立てされて上空から見ると歪んだ楕円状の比較的小さな島。  上空からの地図で言えばいくつかの建物はあるみたいだが、ほとんどは森林で覆われている。  本来の島の大きさよりも広くなっているようで、それでも皇居の半分、某夢の国より遥かに広いといったところか。  クォーツ曰く離島を丸々使った『地下墓地』とも呼ばれているらしい。  彼女が言っていた白蛇信仰の影響でその用途に使われていた歴史の遺産。  緑の線で構築された立体的な図に切り替えられたものを見る限り、下半分が海に沈む歪んだホールケーキのような形。  地下部分はアリの巣のように迷路状に入り組んでいて、計画的に造られたのではなく、どこか無差別に掘り進めたと言った感じ。 「そして会場はここです。本殿と呼ばれています」  アインが指さすのはその迷路の中心にある大きな空間。  神殿のライブなんてのは何処かバチ当たりな気しかしないが、そこはさすがシャルロウンといったところ。  ここを私有地としているのであれば、どんな悪行をはたらいても人目につかない無法地帯であり、正規軍が簡単に介入できないのも頷ける。 「なあアイン、ちなみに向こうの兵力はどんな感じかわかるか?」 「そうですね……私の知っている限りでは2000名以上の私設兵団が警備として集結するはずです。アルマニオ式を迎え撃つつもりでいると思うので」 「そんなにいんの……」    それにジルコン式300体がいるってんだろ……下手すりゃ戦争じゃないか。  こっちはコバルト達を入れても7人だぞ。 「ただそれでもシャルロウン様の私設兵団の5分の1にも満たないですよ。実際に所有している数で言えば猟団も入れるとそれ以上です。ただ他の兵団は都市警備もありますので……ですから今回招集しているは2000名程度と把握しています」 「随分と詳しい事まで知ってんだな」 「はい……側近に近い立ち位置でしたから当然です。そして改良種の犠牲はこれで最後にしたい、それだけです」  どちらにせよ改良種を助けたい気持ちに変わりはないんだろうが、最初からシャルロウンを裏切るつもりだったんだろう。 「もうこれ以上、我慢はできませんから」 「…………。」 『改良種(リメイク)を助けたい』  そこには俺の知らない強い信念を持ったアインがいるようにも見える。 ――――……ただ……  いや、今は余計な事を考えるのはやめておこう。 「なるほどね。あのさ、本当に言葉は悪いんだけど……その……虐殺のタイミングってわかるか?」 「恐らく最後の曲が終わった後です。ライブ映像は収益用に必要とシャルロウン様もお考えなので間違いありません。ちなみに有罪(ギルティ)有罪(ギルティ)!の歌です」  その言葉の後ルビー達が続きを歌おうとしていたが、クォーツに目で殺された事で見事に沈黙していたわけで。 「タイムスケジュール通りいけば22時といったところでしょうか。ちなみに開演は20時です」 「わかった。ありがとう。それにしてもシャルロウンは……最後まで商売人ってわけか」  そしてアイン曰く、ジルコン式300体は本殿付近に虐殺に向けて待機。  残りの2000名以上の私設兵団は島に分散する形を取っているようだ。  これはまたなんとも……  するとクォーツは唯一島に繋がる橋を指して少し困ったように口を開く。 「ただ、私達が島に侵入するのはボートでも使えば簡単だろうけど……観客の退避含めてここしか使えないっていうのはだいぶ不利ね」  そう、その通りだ。  彼女が話すようにこの橋しか使えないのであればたとえ2000名が分散する形を取っていたとしても、橋の入り口に集結されたら全面交戦は免れないだろう。  そんな時、コバルトは得意げに口を開く。 「クケケ……ここで俺の出番って訳だ。俺様がナバール出身って事を忘れたか?」  「なんかアンタに手があるわけ?」 「ナバールは唯一、船舶の所有を許可されてる。個人的に動かすのは厳しいが夜間の『寄り道』程度なら動かしてやれないことも無い」  コバルトが提案したのはこうだ。  ナバールには石油を輸送するタンカーと呼ばれる大型の船が全国を巡回しているらしい。  その帰路に向かう途中のタンカーに連絡を取って、退避用にタイミングを見計らいつつ島につけてくれるとコバルトは言う。 「ただ、時間制限はある。22時から2時間は待機してやれるが、それ以降は深夜0時までに島を離れなきゃならねぇ。どんな状況でもだ」 「約2時間で800人の退避を完了させなきゃいけないって事だな。そんなに乗れるものなのか?」  タンカーがデカいのは知ってるけど…… 「まあ甲板下は貨物室みたいなもんだ。肉詰めみたいにはなるが積載量は超えないだろう。帰りのタンカーだ。石油はほとんど詰んでないから問題ない。合流ポイントはそうだな……」  そういってコバルトは島の北側を指す。 「ここなら海路からもそんなに外れないからギリギリまで待てるな」 「アンタにしちゃあイイ仕事するじゃない」  そんなクォーツに褒められるコバルトが何処か嬉しそうにしてるとルビーは苦言を呈するように口を開いた。 「そこまでは決まりだな。ただ、退避させんのは熱狂的ファンだ。いくら退避を促してもいう事なんて聞かないだろ?ライブ中なら特に」 「そうだな。だからファン達が虐殺を悟ったギリギリのタイミングで一気に退避させるしかないだろう。そこで俺達はジルコン式の相手をしつつ退避の時間を稼ぐしかない」  多少混乱になるかもしれないがこちらも人手不足。  限られた人員の中で避難誘導させるとなれば、危機感を覚えさせて『逃げなければいけない』という集団心理を使うほかないだろう。  それか最悪、俺の血を見せつけて意思の尊重を行使した上で避難を命令するか。 「こっちの配置はどうするの?もう考えがあるんでしょ、クロ」  すでに選択肢が限られている中、そんなクォーツの難しい問いが飛んできたが俺の中ではすでにプランが固まっていたのも事実。 「クォーツとルビーはライブが開始次第、島の北側から一気に退路を確保しつつ22時までに本殿への到達を目指してくれ」 「わかったわ。じゃあ小型のボートがいるわね」 「ああ、北側にいる連中を片っ端から叩き潰せばいいんだな」  ここにいる彼女達しか切り開けないだろう。  夜の森であればクォーツに間違いなく地の利はある。  そしてルビーの突破力を含めて、多少敵の戦力が固まっていたとしても問題ない。  ギルフ将軍の言葉が正しければ、北の海岸から2000人の兵士が攻めてくるようなもので、島にいる私設兵団の戦力も同程度だと考えれば、この退路は貰ったと考えていいだろう。  いや確実に貰わなければならないからこその配置……じゃなきゃ本末転倒だ。  ライブ開始直後なら警備も手薄になるはずだろうし、何より北側だけであれば全面交戦は免れる事ができる。 「パドとコバルト達は彼女達の後を追って退路の安全を確認しながら、本殿へ到達次第、避難者の誘導に当たって欲しい」  これで観客たちは確実に退避できるはず。  正直ここに人数を当てなければ避難者は島の中で路頭に迷ってしまうってもんだ。  こんな時、マキナとガトーやゲイリーがいればな全然違ったんだが。 もう少し団員が欲しいところだ。 「って……アンタはどうするのよ」 「俺はひとりで正面から入ろうかと。観客として」  まあそんな答えにクォーツが納得してくれる訳もなかった。
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