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――――……!?
「ちょっとクロ……それは……!!」
「まあ聞けよ、クォーツ」
その言葉に一同は驚きの表情を隠せないでいるようだが、正直護衛を着ける余裕も無い。
今回の目的は改良種の救出。
神殿北部における退路の確保、および制圧と避難者の一斉誘導だ。
アインの言う事が確かなら、ライブが終わるまで観客に混ざっていれば手出しはされないだろう。
そこが今回の『賭け』みたいなもの。向こうからすれば俺の血が流れた瞬間に現場はライブどころじゃなくなる。
アインの話から観客と俺をまとめて襲いに来ると読んだわけだ。
何より俺が来ることをシャルロウンが望んでいるのなら必ずどこかで見ているはず。
そしてアインが『希少種をおびき出すのに成功しました』と伝えなければいけないこの状況。
クォーツ達と同行すれば、それを知っているシャルロウンは外部からの侵入に対して警戒してしまう上、アインが疑われる事にも繋がってしまう。
だからこそ……そこを利用する。
アインに乗せられてノコノコやってきたと思っているシャルロウンが俺に注目している以上、退路を確保するクォーツ達から多少は目を逸らす事になるだろう。
「あえて罠に掛かってやる……ってとこかな」
そんな思惑をみんなに伝えると何とか納得して貰えたようだった。
それに俺にはもうひとつ目的がある。
抽選の景品を渡してしまったあの女性の事がひどく気になってしまっていた。
彼女は俺がチケットを渡さなければ事件に巻き込まれる事はなかったはず。
出来れば全ての改良種を助けたいが、混乱に乗じて救助するってのはこちらの人員から考えても至難の業だろう。
だからこそ彼女を含めひとりでも多くの改良種を確実に助ける事を考えた。
「クロキ様……なんとお礼を言っていいか……」
「改良種を助けたい気持ちはこっちも一緒だよ。情報をくれてありがとう」
「いえ、希少種様に感謝されるなど……本当にありがとうございます!!」
「…………。」
そんなやりとりも終わった所で、クォーツとコバルトの部下達は神殿の上陸ポイントについて打ち合わせ。
クォーツは報酬がでればプロフェッショナル……さすが金を詰めばきっちり仕事をこなすエリート傭兵。
アルマニオ博士に一番信頼されていたってルビーが言っていたのも頷ける。
「ここは船着き場があるから問題ないわ。その時間まで沖合で待機して」
「はい、姉さん!!」
「はい、姉さん!!」
「へい、姉さん!!」
なんていつの間にかコバルトの部下を自分の部下にしていたクォーツの横顔は本物の参謀のようだ。なんか爺さんも混ざってるが。
そしてアインはどこかホッとしたような表情で椅子に腰を掛けている。
彼女は『裏切り』という言葉ではあるが、勇気を持って有益な情報を提供してくれた。
ここからは俺達の仕事だ。
確かにシャルロウンを抑えることが出来れば、彼女達がファンを楽しませ自由に活動をする事が可能になるだろう。
それはここにいるメンバーも理解してる。
「なあなあアイン、今までの話聞かせてくれよ!」
「つつつツヴァイさんってどんな方なんですか?」
お前らはクォーツを見習ってもう少し緊張感持て。
まあ現場でみっちり働かせてやろう……いかんいかん、クォーツみたいになってしまうところだった。
そんな国を代表するアイドルを囲み、ルビーとパド達が談笑に浸っていると、
「クロの兄ちゃん、少しいいか」
その場からコバルトに猟師館のトイレへと連れ出されたわけで。
するとコバルトは誰も着いてきていない事を確認すると、トイレの出入り口のドアをそっと閉める。
「まんまと押し切られた形になっちまったな」
「まあクォーツ達はああなると手に負えないからね。ただ改良種を放っておく訳にはいかないよ」
するとコバルトは『それは俺様も同じ気持ちだ』といって胸元から1枚の写真を取り出した。
「リュドミラー達の士気を下げるわけにはいかねーから、兄ちゃんだけには一応忠告をしておいてやる」
その写真は防犯カメラの映像の一部を切り取ったようなもの。
そこには黒いレインコートを着た3人の小柄な人物が映っているのが伺えるが顔はフードとマスクで隠れている。
「こいつは帝都の盗難事件での1枚……といったらピンと来るか?」
「小柄な3人……これって有罪三……!!」
と驚いた瞬間にコバルトは『バカ……!!』といって俺の口元を塞ぐ。
「……確証はねーから黙ってたが、実際に会ってみたら確信に変わった。この写真は有罪三姉妹だ」
「いや……でもシャルロウンに従うしか無かったのであればおかしくないだろ?」
その言葉にコバルトは『確かにそれは間違いねぇ』と呟きながらも話を続けた。
「だが帝都の倉庫から盗み出すなんてのは並大抵の改良種じゃ出来る事じゃない。倉庫の警備員は皆殺し……つまり強奪だ。たった15分でな」
「ちょっと待ってくれ……じゃあアインがそんなにやばい奴だってのか?」
「まあヤバイはヤバイかもしれんが俺が睨んでるのはこの2人……」
するとコバルトは2枚目の写真を取り出すが、先ほどとは違い今度はライブ中の1枚。
「アインの両サイドにいる有罪三姉妹のパフォーマー、ツヴァイとトライだ」
ボーカルであるアインの横でパフォーマンスだろうが、火炎放射器やサブマシンガンを過激にぶっ放している様子の2人。
その素顔は、月半ばの金曜日などで見かけるような悍ましいマスクでわからない。
コバルト曰く、元々アインはソロ活動だったが、ツヴァイとトライは昨年に加入したメンバーで一度もその素顔を明かした事はないという。
その謎すぎる一面でパドのような熱狂的なファンもいるくらいだ。
「まあ確かに見た目は怪しいけど……彼女達が加入した事に何か繋がりが?」
ルビーと同じくらいの背丈でアインよりも少し小さな彼女達。
メンバーの増員なんてのは珍しい事じゃないとは思うが。
「俺の情報ではこの2人が加入してから有罪三姉妹はシャルロウンの側近へと急激に成りあがったと聞いている」
実績を重んじるシャルロウンに評価されるというのは、よっぽど非道な事を積み重ねてきたんだろうとコバルトは話した。
それに相当なハイペースで貢献した事で、コバルトの耳には彼女達より古株の私設兵団との摩擦も色々あったとの情報も入ってきていたらしい。
今回シャルロウンを裏切るというように、腹にいちもつを抱えてる割には今までが『従順過ぎた』のではないかと。
恐怖政治の影響といってしまえばそれまでだが……。
「ツヴァイとトライか。覚えておくよ」
「有罪三姉妹っていうユニット自体が危険なのは間違いない。だが……」
どこか煮え切らないコバルトは後頭部を掻きむしる。
「改良種を助けたいっていう今回の作戦に関しては、俺も注意して聞いていたが不審な点は見当たらねぇんだ。そこがわからねー」
「いや、俺も同じだよ。少し妙な点もあったけど、それは恐らく私情だと思うし……」
――――……!?
「クロ―、物資の調達に行くわよー」
すると乱暴にドアをノックするクォーツの声が響いた瞬間にコバルトは胸ポケットに写真をしまう。
「とにかくだ。今は彼女達が善か悪は判断できない。だがな……」
――――……??
「従順なやつほど『理由』ってのは抱えてるもんだぜ」
「理由か……ありがとうコバルト。色々情報をくれて」
「俺は闇商人だ。クケケ……案外俺が黒幕かもしれないぜ」
ニヤリと笑ったコバルトはそんな意味深な言葉を残し、一度足を滑らせながらもトイレを去っていった。
おちゃめな黒幕だ。
「理由か……」
確かに今までの有罪三姉妹の行いに関しては、シャルロウンの影響で色々やらされていたのも事実だろう。
それが非道な事だったとしても逆らえなかったと言えばそれまでなのも理解はしているが、彼女達が改良種を助けたい気持ちは本物である事に間違いはない。
有罪三姉妹のバックグラウンドがどうあれ、ハーデラ私設兵団としては優良な情報提供者でしかない。
まずはこの作戦に集中し、成功率を高める事が最優先。
そうして俺達は明日の救出作戦の為の準備を進めているうちにあっという間に1日を終えたのであった。
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