1:乱ジェリー of the デッド

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――――……翌朝。  旅の門出に相応しく天気は快晴だったが早朝からクォーツのご機嫌は斜めどころか雪崩式ブレーンバスターで首から落とされたレスラーの如くそりゃもう酷い事になっていたわけで。 「ほんっとアンタなら信じらんないわ!!」  軍用車両の屋根の上から物凄い剣幕を向けながらも、彼女は旅の物資である荷物をロープで固定していた。  昨晩何とか説得したと思ったのだが、彼女曰く目が覚めた瞬間にカチンと来たという無意識レベルの嫌悪感に苛まれたそうだ。  まあ気持ちはわからなくもないんだが。  都市から支給されたその深緑色の車両は運転席と助手席、後部荷台に大人4人ほどが座れる軍務に使用される装甲車両で、中古ではあるが大きな馬力と分厚いタイヤで山でも浜でもなんのその。  一応、軍用軽装甲機動車両というものに分類されるらしい。知らんけど。 「ははっ。まあクロらしいじゃねーか。金ならなんとかなるさ」  ルビーは煙草を咥えながらニカっと笑って荷台から顔を出しているが、多分そんなに深く考えていないだけだ。  うちの犬猿の仲この上ない助さん格さん達が『アンタも手伝いなさいよ!』なんてやり取りをしていると、 「遅れましたすみませーん!必要な電子機器の持ち出し許可申請をうっかり忘れていたもので」  私設兵団のうっかり八兵衛ことパドが汗だくになって段ボールを抱えて到着したわけで。    そう、彼は正規軍を自ら除隊してこの私設兵団へ入団してくれたのだ。  除隊した時にはルビーに相当反対され怒られていたが、彼の強い決意を前にルビーも根気負けして認めざるを得なかったといった所。  クォーツとルビーの仲裁にも手慣れている上、車両の運転やメンテナンス、内政調査のレポートも手伝ってくれるとの事だったので入団を許可したのだ。  何でも出来る超エリートが、常に俺の味方でいる約束をこうして果たしてくれている。断る理由など何一つあるまい。  そんな軍事都市ハーデラの私設兵団である面々と旅の準備を終え、運転席にパド、助手席に俺、荷台にクォーツとルビーが乗り込んだ所で、 「気を付けていってらっ……うっ……うっ……」 「いや、1週間で帰ってくるよ」   と助手席側の窓の外にはピンクのハンカチで涙を拭う化けも……ゲイリー中尉。 「フム……こちらの事は任せておけ。私も同行したいところだが」  悔しそうな表情をしているガトーはルビーの除隊後、88小隊の正式な軍曹として着任。正直、彼らが軍にいてくれた方が色々と助かる事も多い。 「私も行きたかったですー。お土産待ってますから!例の件に関して内政調査が終わる頃には結果も出てくると思いますので私のラボへ来てくださいね!」  なんか前髪が以前より更に短くなった気がするマキナは羨ましそうにしているが、彼女に関しては『血の件』で研究を進めてくれている軍医。そう簡単に軍から離れられない。  何よりパドが秘密裏に行った統計データによれば仮にマキナが除隊した場合、35歳未満の正規軍兵士の士気が65パーセント低下し、労働生産性が23パーセント台を切るという恐ろしいデータが実在するらしい。  そこそこ致命的な上お前達はなんの為に軍人をしているんだと問いただしたくなったが、それ以前にそんなデータを取ってる暇があるなら仕事しろ。  とりあえずパドがなんでも出来る事とマキナが軍にとって必要な存在という事がわかった所で、 「じゃあ行ってくるよ」    彼女達に見送られながら内政調査という社会勉強に出向くのであった。
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