1:乱ジェリー of the デッド

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「資料の2枚目を見て下さい。4名ですが行方不明者の情報があります」 「在籍都市も違うのかよ」  ルビーの言う通り行方不明者の出身はハーデラ2名、ナバールが2名。今回の事件はハーデラにも被害が出ている事で、こうして内政調査となったのだ。 「ちなみにハーデラ出身の2名は正規軍の者です。彼らは休暇を取ってスピリアンに向かった。なんらかの目的があったのでしょう。ですがその詳細は不明」 「自ら誘拐されに行った訳じゃないだろうしな。反社会組織に巻き込まれたか。でも軍人……それに階級持ちが2人いたならその線は低い気もするが」  ルビーは『うーん』と唸り、謎が深まるばかりだったが、静まり返っていた車の中クォーツがボソリと口を開く。  「……神隠しのつもりかしら」 ――――?? 「昔スピリアンの周辺では『白蛇信仰』って言ってね。白蛇を神として祀る文化があったのよ」  自分のノートをペラペラ捲るクォーツ曰く、俺が生きていた時代の愛知県。その周辺では平和や平穏の象徴として白蛇を神として祀る文化があったらしい。  だが、氷河期含め数々の天変地異が起こった事で、そこに住んでいた人達は『白蛇様の逆鱗に触れた』としてひどく恐れたそうだ。  やがてその怒りを治める為、人間が犯した罪の形……改良種(リメイク)を神への生贄として捧げた所、偶然か必然か、続いていた自然災害が嘘のように収まってしまった。  そこで更に白蛇信仰が深まり、その信仰の名残りとして巷では行方不明者の事を『神隠し』という伝承があるらしい。  スピリアンが改良種(リメイク)に対しての『認識のズレ』があるというのは、少なからずそんな風習の影響があったから、とされているようだ。 「神隠し、か」 「まあ伝承みたいなものだから。気にしないで」  いや気になるわ。  そんなやりとりを俺とクォーツがしていると、ルビーは大きな溜め息をつく。 「だがアタシ達は情報を手に入れたら持ち帰るってだけだ。下手に首を突っ込むとロクな事にならねぇ。軍に任せとけ。ったく……せっかく楽しい旅だと思ったのに胸糞悪いぜ。こんなんじゃ心から楽しめねぇっての」  彼女はこの旅……社会勉強を楽しみにしていたんだ。昨日も夜遅くまで興奮して眠れなかったみたいだし。 「そうだな、なんか悪い事しちゃ……」 「クロ、コイツの事は放っておきなさい。心配ないわ」  クォーツが大きな溜息をついている中、俺とパドは仕方ない感じで互いに頷き、彼女の事はスピリアンに差し掛かるまで少しそっとしておくことにした。  まあ確かにルビーの言う通り、クォーツは博識だけあってその土地の情報なんかを沢山知ってるが、ルビーはあまり知らないのだ。  内政調査も大事だが1週間もあるんだ。まずは彼女達の社会勉強が先だろう。 ――――……そして、 「ひゃぁああああああ!!すげぇええ!!」   ホントに心配なかった。  ルビーは絶叫しながら運転席と助手席の間、天井のハッチから上半身を出して商業都市スピリアンを前に大興奮している。  クォーツは『ほら言ったでしょ』という顔で呆れてはいるが、 「雑誌でみるよりも凄いわね」  彼女もまた運転席側に身を乗り出し、フロントガラス越しの商業都市に興味津々といった所。  それもそのはずだった。 「クロさん、これが……スピリアンですか」 「ああ、これはまた……」  漆黒の巨大な隔離壁には、金色の大きな歯車が幾つも蠢き、壁に埋め込まれた無数の時計の羅針盤は刻々と時を刻み続ける。  その無限に重なった秒針の音はガラス越しにも聞こえてくるほど。  ハーデラのコンクリート打ちっぱなしの壁とは違い、俺の時代でも見た事のある馬鹿みたいに巨大な絵画、壁面に描かれた油絵にも似た色彩豊かなアート、もはや都市そのものが芸術品だ。  都市の真ん中から顔を出すように、黒い女神像が右手を天に掲げているのが都市の象徴として圧倒的な存在感を放っていた。  すべての時計は動かないオブジェクトじゃない。  その全ての時計ひとつひとつは正確に時を刻み、商業都市として『時は金なり』という言葉を具現化しているようにも見て取れる。  これが知性と感性の街、商業都市スピリアン。
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