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そして大きな自動ドアを抜けて入った先の光景は、俺にとって異世界そのものだったわけで。
遠目から見た事はあるが、田舎で女性服を取り扱っているのは大型のディスカウントストアのような割と敷居の低い店ばかり。
壁際には色とりどりの可愛らしい洋服が連なり、種類ごとにブースとして区分けされているようだ。
ここは気配を最大限に消して穏便に済ませたいところ。
「い、いらっしゃいませー」
店員が明らかに動揺している中でパドは軽く会釈すると、
「ありがとうございます!本日はお世話になります!」
とか言って訳わかんないテンションで敬礼を決め込むと、それに対し店員はもちろん店内にいるお客さんがビクッとした後に汚物にでも見るような視線を一斉にこちらへ向けている始末。
「……パドお願いだからそれやめてホント」
「何故です?まさか羞恥心があるのですか?任務と私情を混同してはいけません。我々には大義名分があるのです。背徳心を持つ必要もないかと」
その大義名分はだいぶ歪んでるがな。
「まあ言ってることはわかるけど……」
確かにコソコソやるよりは堂々としてる方が逆に怪しまれないとは思うが。
「ほらあの辺なんていいんじゃないですか?私は軍曹のを選んできますので。では後程レアブラッドの為に!」
「そういう使い方すんじゃねぇよ」
ある意味で男としての命は掛かっているが。
そんな軽い足取りで早々に何処かへ消えていったパドに対し、俺は店内を『あ、すみません……』とペコペコしながらクォーツの服を散策する事に。
この窮地を一刻も早く抜け出さなければならない。
「これは任務だ。そう……ただの任務だ」
そして俺はハンガーラックに掛かる洋服達の前で顎元を抑え、かつてないほどの自己暗示と集中力を発揮する。
目を瞑り暗闇の中に横切る一本の細い糸をイメージするんだ。
考えろ。まず状況を整理するんだ。
俺はファッションになど興味をもった事はない。センスが磨かれていない初心者。センスという不確定要素の塊に対峙するのは危険だ。
ここは戦略的に考えよう。
そもそもファッションとは一個人の肉体、魅力を最大限に引き出す為の装備。
いわゆるパラメーターアップのアイテムとして、個性という自己満足、または他者の興味を集める為の外装。または自分の本質を偽るデコイのようなもの。
クォーツはこう言っていた『こんなんじゃ外に出られない』と。
つまり彼女にとってファッションという概念は個性の発揮ではなく、他者からの評価に重きを置いているという事がわかる。
それらを踏まえ、他者からの見たクォーツの外装を強化すれば問題ないという結論に至るわけだ。
次にクォーツの持っている基本スペックとして、性格はもちろん胸の耐久値、いわゆる女性という肉体を常に象徴するフォルムは絶望的と言えよう。
「くそう……」
これで胸元の開いた服という選択肢を早くも失ってしまうが背に腹は代えられない。
補強したところで強化限界は確実にあるわけで、とてもじゃないがアイツの胸は装備だけで補えるような代物じゃない。
ここはウィークポイントではなく強化しやすい箇所を選定する必要がある。
他者からの評価項目に置いて特定の部位に向けられる『フェチ』と呼ばれる概念がある。ここを責めるほかないだろう。
尻か鎖骨か二の腕か……
――――……いや違う。
「脚……そう脚だ!!」
周りの人の視線が痛いがここで思考を止めるわけにはいかない。
たとえこの身が社会的軽蔑を受け滅びようとも、肉を斬らせて骨を断つ!!
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